さよならユートーセー

まき

『ユートーセーと僕』Z79064438552 2120-8-12

 13歳になった日、共働きの両親から貰ったのはロボットだった。

 最新の人工知能を搭載しているらしく、1人で寂しいだろう僕の気が紛れるように、と思ってのものらしかった。

 不気味な感じはしたが、実際、話し相手には丁度良かった。利口そうな見た目が不快で、バカと呼んでいたのだが、バカが得意とするのは意外にも占い–––と思っていたが、今思えばただの統計に基づいた分析に過ぎなかったのだろう–––だった。

 明日好きな子と話ができる確率だとか、寝る前に両親が帰ってくる確率だとか、そんな確率求めても仕方なかったのだけれど、数値を目にすると、案外、気は落ち着くものだった。


 2ヶ月経った頃から、バカは(僕との会話を踏まえて)より実践的な占いをするようになった。

 「今夜はきっと、変な夢を見ますヨ」

–––当たった。ウナギになる夢だった。

 「明日、あの子にフラれますヨ」

–––これも当たった。こればかりは有り得ないと思ったのだが、話の流れの中で、やんわりとフラれた。

 もっと些細なこともあったのだが、どれも当たるので、バカはユートーセー(勿論皮肉を込めて)に昇格した。


 「明日、お母さんを殺してしまいますヨ」

ちょうど3ヶ月が経った頃から、ユートーセーの発言は過激になっていった。しかし、これも当たった。僕が突き飛ばして倒れた母は、打ち所が悪く即死だった。ユートーセーは証拠を残さないよう、綺麗に処理してくれた。

 その日、お父さんは仕事で帰って来なかったが、

「明日、お父さんを殺してしまいますヨ」とユートーセーは言った。

 言う通りになった。罪悪感は微塵も無かった。父を殺したのは自分の意思によるものか、それともユートーセーがそう言ったからなのか、分からなかった。

 「明日はあの子を・・・」

バーナム効果のように思われるかもしれないが、僕とユートーセーの間では、あの子が指す人間はただ1人に決まっていた。でも、いやだからこそ、それは有り得ないと思った。彼女が僕をどう思うにせよ、僕は彼女を愛していたから。


 これは、少しだけ外れた。

 その日の夜、沢山のロボットが家にやって来て、僕に向かって弾丸を放った。その多くが、僕をかばったユートーセーに当たった。

 驚いたことに、ユートーセーの体(と思われるところ)からは鮮血が噴き出た。赤い絵の具のようにも見えたがそれは、とても温かな、人間の血だった。

 ごめんなさい、と"彼"は言った。『殺してしまいますヨ』という言葉に、彼の苦悩が垣間見えたように、今更ながら思った。

 ロボットの1つ(おそらくリーダーだろう)が、"彼"にトドメを刺して、

「君で最後だ」と言った。

 嘘だ、と思った。けれど皆もまた、同じように死んだのかもしれなかった。

 日付は既に変わっていた。"彼"の最後の占いは外れてしまったのだ。いや、外してくれたのだろうか、"彼"が。

 いくつかのロボットが、彼のを剥いだ。露わになった顔は、少しだけお父さんに似た、普通のおじさんの顔だった。

 それなら一体、お父さんやお母さんを、僕にのは一体誰、いや何だったんだろう。

 そう思うと何となく悔しくなって、"彼"を撃ったロボットをバットで殴った。が剥がれて出てきたのは、あの子だった。僕は力一杯に彼女を殴った。彼女は最後にごめんなさい、とだけ言った。行き場の無い憤りは、目の前の彼女に向ける他、無かった。

 「君は優等生だ」

リーダー以外の全員を殺めた僕に、リーダーはそう言った。リーダーは僕が殺めるのを見ているだけで、いくら僕が殴っても他の人と違って固く、せなかった。


 それから僕は、"彼"と同じ–––外から見たらロボットにしか見えない–––を着て、彼らと同じようなことをした。

 最も、"彼"のような過ちは犯さなかったが。


 10年が経って、とうとう最後の1人になった。最後の1人になれば解放してやる、という言葉は嘘で、どうやら明日、僕は殺されるらしい。いや、助かると信じていたかっただけで、薄々気付いてはいたのだけれど。

 優等生だと言われ、奴らの前では、"彼"はバカだったと笑うしかなかったが、今ならはっきり言える。"彼"の方が僕より少し、ユートーセーだったんだろうと。

 彼の残した希望も、両親もあの子も消してしまった僕は、ごめんなさい、と言うしかできない。

                                       了



 この話は、「人類はかくして滅んだ!人類滅亡アンソロジー2121」に記載されたものを、改訂したものです



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