第19話 模擬テスト

クレハの話を聞いてから、あっという間に一週間が経過した。

その一週間の間に、重点を置いていた応用箇所の解き方は一通り教えたので、残りの一週間で基礎の復讐も含め、どれだけ解き方を身に着けられるかが勝負の鍵となってくる。

そのことは生徒たちもわかっているようで、この先一週間は全て自習にすると言った時の喜びようといったらなかった。その上、ベラベラと無駄話をするわけでもなく、黙々と自身の力でゼラの用意した問題に取り組み、またわからない箇所は積極的に聞いたりと、意欲的に学習に取り組んでいた。


これなら、欠点者はいないだろうと踏んでいる。

しかし、高得点を狙えるかどうかは……まだまだわからない。

実際ルーリアに以前Fクラスで行った小テストを手渡し、Aクラスでやってもらったことがある。その時のクラス平均点は何と驚愕の九十点。

入学当初からルーリアが教えていたこともあってか、Fクラスとは天と地ほどの差を見せつけられたのだ。学年の上位はほぼ全てがAクラスに独占されることだろう。


流石にAクラスレベルになれとは言わないが、D、Eクラスには平均点で勝ちたいというのがゼラの願望だった。

そのために、とにかくゼラも全力でサポートするしかない。


「というわけで、今からテストするぞ」


ゼラが手元に用意した問題を前に言うと、クラス全体からは嫌そうな声が続出した。

テスト前にテストをやるなんて、という意見がそこかしこから聞こえたが、それを宥め、ゼラは今回用意したテストをやる意義を語った。


「今回作って来たのは、俺が過去五年分の問題から出題率や傾向を調べて作った模擬テストだ。つまり、これで高得点を取ることができれば、本番でも高得点が狙えるってことになる。生憎、俺は問題作りに携わってないから、どんな問題が出されているのかとかは、わかんないからな。傾向を探るしかない」


別に反則ではないのだ。

実際の問題をそのまま出せば、それは立派な違反行為。しかし、過去の問題から探るのは寧ろ生徒に奨励しているところだし、それに則って模擬テストを作っても何の問題もない。クラスの学力が上がる、つまりは学園の質が上がるということなので、ゼラの行っていることは学園全体のためになることでもあるわけだ。


一人に一枚ずつ問題を配り終えると、生徒たちは皆緊張したように顔を強張らせている。まだ本番ではないのに、本番と同じような気持ちで取り組む姿勢に、少しばかり笑いがこみあげてきた。


「模擬テストでそんなに緊張してたら、本番にもたないぞ?もっと力抜いてやりなー」


そうして開始の合図を出す。

この一限、生徒たちは皆真剣な表情で模擬テストに取り組んでおり、その雰囲気に、ゼラも何故か一緒になって緊張してしまった。



そして、二時限目の半ば。

採点を終えたゼラが教室に入った瞬間、1-Fクラスは瞬時に静まり返り、奇妙な程の緊張が教室に走った。ビシッと背筋を伸ばす者もいれば、机に頭を伏せて時を待つ者もいる。

当初の諦めモードとは、大きな違いだ。


「えぇー、さっきやったテストを返すが、先に平均点と最高点を発表するか。最低点は言わないからな」


そう最初に告知し、ゼラは白墨でそれぞれの点数を書き出す。

ごくりと生唾を呑む音が聞こえ、黒板に書き出された点数を見た瞬間──生徒たちの間に、ホッと安心したという雰囲気が流れ出した。

ゼラも嬉しそうに、労いの言葉をかける。


「平均点七十一点。最高点九十点。これだけの点数を取れるのは、正直予想してなかった。皆、よく頑張ったな」


それなりに点数は取れるだろうと踏んではいたものの、まさかここまでの高得点とは予想していなかった。

当初は平均六十点程いければ及第点だとしていたのだが、どうやらゼラはFクラスの学力、そして努力を見誤っていたらしい。ゼラの思っている以上に高い吸収力、そして向上心を見せ、日々努力していたようだ。家に帰ってから勉強する生徒なんてほとんどいないと思っていたのだが。

自分の想像以上の成長を見せてくれた生徒たちに、ゼラは心の底から喜んでいる。


「答案返すから、一人ずつ取りに来いよー」


順番に生徒たちに返していく。

彼らは答案を返却された途端、左上に書かれた個人の点数を見て一喜一憂──いや、ほとんどが喜んでいた。つい一ヵ月ほど前ならば考えられなかった点数が書かれていることに、嬉し涙を流す者も。まだ本番ではないというのに。


「ベール。前回酷い点数だったのに、よくここまで上げたな」


寝癖が直っていないのか、黒髪を盛大に跳ねさせているベールに、六十五という点数が書かれた答案を返すと、彼はえへへと照れながらも、まだまだだという向上心を見せた。


「上がったは上がったけど、まだ平均点より下だし、残りの数日で頑張らなきゃいけないよ」

「君のミスは結構簡単な凡ミスが多かったから、落ち着いて取り組めばもっと高い点数が狙えるはずだ。大方は理解しているだろうから、あとはそこだな」

「おう!」


次に、相変わらず無表情のロンド。


「九十点。クレハを抜いて、最高点数がお前になるとはな。よく頑張った」

「いつまでもクレハ=ペイルージュに負けてはいられませんから。それに、どのみちこれは模擬テストです。本番で点数が取れなきゃ意味がない」

「だとしても、難易度は変わらないはずだ。この調子なら、必ずいける」

「……どうも」


どこか照れ隠しをしているように顔を背けながら、自身の席に戻っていくロンド。ツンデレめ。とは口には絶対に出さない。


そして、メルとクレハだ。


「メルは八十点。クレハは惜しくも八十八点。どっちも高得点なんだが、悔しいだろ?」

「「当然(です)」」


二人が自身の点数に納得していないのは、答案を返して時点で察した。

自身が最高得点でなかったことが、悔しいのだ。

向上心が高いのは非常に結構なことなのだが、妥協というか、今に点数でも十分に満足できるはず。これ以上根を詰め過ぎて空回りするということだけは避けてもらいたい。


「悔しいからって、勉強しすぎないこと。時には休憩も大事だし、君らは間違えたところを数回やり直して憶えたら、他の箇所を簡単に網羅しておくんだ。その方が点数取れるはずだし」

「でも、たくさんやった方が……」

「メルーナ。人間は一度に記憶できる量に限界があるんだ。どんなにたくさんやったところで、頭の中から消えてしまったら意味がない」

「うっ……はい」


大人しく諦めたメルの次は、クレハの番。


「クレハ。君が一位から転落したのはあくまで模擬テストだ。次はロンドに負けないように、残りの数日、適度に休みながら勉強を進めてくれ」

「はい、先生」

「良い子だ。でも、今回は難しい応用の山が外れただけだからな。他の部分は完璧だ。これなら、学年最高得点も狙えるだろう」


冗談抜きで、狙える範囲にはいる。

一年で最初のテストということもあり、出題範囲は比較的少ない方なのだ。それでも多いが。

過去に倣った公式を使うような問題もないので、勉強次第では一位がFクラスから出ても不思議ではない。掃き溜めクラスと呼んだ者たちを小馬鹿にできる日もそう遠くはないだろう。

しかし、Aクラスの平均点は恐らく九十点を超えて来るはず。まだまだ、最高クラスにはほど遠い。


けど、他のクラスにはいい勝負ができるのではないかと思っている。

格が違うのはルーリアが教えているAクラスのみ。他は良くも悪くも、普通の魔法講師が教えているレベルだ。


どんな結果になるのか楽しみになりながら、ゼラは全体に注意点や良かった点を告げ、再び生徒たちからの質問を受け付け始めた。

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