第24話 景の一日

 私は日向景です。


 高校生ですが、女優をやっています。


「じゃあ、いってくるから。気を付けていくんだぞ」


 あれは私の兄です。


 仕事をするときの兄さんは、何でもそつなくこなすので、ちょっとかっこいいです。


 でもシスコンだし、普段はポンコツなので台無しです。


 今日は双子の妹の千代ちゃんの撮影に付き添うそうです。


「お姉ちゃん、行ってくるね!」


「うん、いってらっしゃい」


 あれが千代ちゃんです。


 とても可愛いです。


 私は今日は仕事がないので、一人で学校に行かなければなりません。


 朝は苦手ですが、なぜか毎朝いつの間にかリビングの椅子に座っています。


 朝の準備にはそれほど時間をかけません。


 ご飯を食べて、着替えて、荷物を用意するくらいです。


 今日はとても寒く、窓から雪が積もってるのが見えます。


 赤くて長いマフラーをぐるぐる巻きにして、出かけます。


 このマフラーは板谷先輩から奪い取ったものです。


 マンションから学校までは、歩いて10分もかからない距離にあります。


 でも駅の近くということもあり、そこそこ人が多く話しかけられることがあります。


 なので私は毎朝マフラーで顔を半分隠して、ダッシュで学校に向かいます。


「おはよ~景ちゃん」


「おはよう、リンちゃん」


 彼女はリンちゃん。


 同じクラスでとてもちっちゃな女の子です。


 ほかの生徒は私にあまり近づいてきませんが、リンちゃんとは仲良しです。


 教室に入って席に座り、リンちゃんと話しながら息を整えるのが日課です。


「よ、よお日向!」


 こいつは木戸。


 いつもリンちゃんとの会話を邪魔してくる奴です。


「うん」


「今日も冷たいね、景ちゃん」


「だってあいつ嫌いだもん」


「ちょっとちょっと! 本人ここにいるんですけど?!」


 木戸もリンちゃんと同じで、私をあまり避けないタイプです。嫌いだけど。


 それから一時間目が始まります。


 基本的に一時間目は眠くなり、二時間目でお腹が空き、三時間目は眠くてお腹が空き、四時間目は逆にお腹が空きません。


 何とか午前の授業を終え、昼休み。


「景ちゃん、行こう」


「うん!」


 私とリンちゃんはいつも中庭で食べるのですが、さすがに雪の中では食べたくないので、穴場を見つけました。


 ガラガラガラ


「こんにちは、先生」


「あら、今日も来たのね。こんにちは」


 保健室です。


 ここは暖房が利いていて、かつ人が少ない。


 そして、もしケガをしてもすぐに手当てしてもらえる、最高の場所です。


 先生と三人で話しながらお昼ご飯を食べます。


 そのあと、午後の授業を受けて、部活が始まる前に再びダッシュで帰ります。


 放課後はとても危険で、全然知らない生徒や木戸から話しかけられます。


 先輩から奪ったマフラーをなびかせながら、マンションに駆け込みます。


「ふう~」


 家についてまずすることは、ベッドにダイブすること。


 うちは部屋の数の問題で、兄さんのベッドがリビングにあり、普段はこのベッドをソファの代わりにしてテレビを見たりしています。


「ただいま~」


 しばらくすると、兄さんたちが帰ってきました。


「あ”~疲れたあ」


 ドン、と兄さんもベッドにダイブしてきます。


「お帰り」


「ただいま」


 布団に顔をうずめたまま答える兄さん。


 この場合は仕事先で面倒なことがあった時の反応です。


「お姉ちゃん、聞いてよ~」


 千代ちゃんもベッドにダイブしてきて、私のお腹に腕を巻き付けます。


「どうしたの?」


「それがさ~、今日現場行ったときの監督がさ~」


「ああ!! 思い出しただけで腹立つ!」


 突然兄さんが叫びだしました。


 それから30分ほど二人の愚痴を聞き続けました。


 なんとなく、こうやって三人集まってる時が一番落ち着きます。


「大変だったね」


「そうなの~」


 だから私は日向家の長女として、女優として頑張れる気がします。

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