第23話 積もる雪、大晦日

 大晦日。


 降り続ける雪は、街を白く染め、人々を凍えさせる。


 人肌恋しくなるこの季節、街でも学校でも、カップルが増えているような気がする。


 テレビでは芸能人の結婚報道、週刊誌にはスキャンダル。


 世間の目はどこにあるかわからない。


 しかし、人々は恋をするのである。


「やっぱりこたつさいこうだわ」


「だね~」


「う~~ん」


 俺たち兄妹は今日もこたつで過ごすのであった。


「まったく、恋愛なんてくだらない」


 俺はミカンを頬張りながら言った。


「お兄ちゃんは彼女ほしいとか思わないの?」


 千代は顎をこたつに置いて、スマホを見ながら聞く。


「おもわんな、そもそも俺にそんな時間はないし」


 最期の一粒を口に放り投げていった。


「ふ~ん」


 千代は変わらず、興味なさそうに言った。


「お兄ちゃんって、高校生って感じしないよね」


「おい、それはどういう意味だ」


「うーん、考え方が冷めてるというか、ひねくれてるというか」


「ふん、俺はそれでもいいもん!」


「う~~ん」


 もう昼過ぎだというのに、景は起きてきてずっとこたつで寝ている。


「景ちゃん?、いつまで寝るの?」


 俺は景の肩をゆすりながら声を掛けた。


「う~~ん」


「だめだこりゃ」


「お姉ちゃん、昨日まで仕事だったしね~」


 年末だというのに、30日まで高校生に働かせる芸能界は恐ろしい。


「でも、普段あれだけ忙しいから、こうしてゆっくりするのもなんだか落ち着かないな」


 俺は二個目のミカンをむきながら言った。


「そう? 私はこっちのほうが落ち着くな~」


 千代はスマホを置いて、テレビをつけた。


 年末は特番がやっているが、この時間帯は意外と見たいものがない。


 すると、広告で寿司のCMが流れた。


「そういえば昼ご飯まだだったよね?」


「うん、そうだな」


「・・・・おにいちゃ」


「いやだ」


「まだ何も言ってない!」


「言わなくてもわかるわ! どうせ寿司買ってこいだろ!」


「ぐぬう」


 千代は俺を睨みつけている。


「俺は今日、このこたつを一歩たりとも動かん! わかったか!」


「じゃあ、おひるごはんどうするの?」


 俺と千代の視線は自然と景に向く。


「ねえ、お姉ちゃん起きて?」


「う~~ん、おきてる」


「お姉ちゃん、おなかすいてない?」


「すいた~」


「だよねだよね! お寿司とか食べたいよね!」


「うん、食べたい」


 景はゆっくり体を起こし、半開きの目を開けた。


「どこにあるの?」


「ここにはないよ?」


 千代がそういうと、不機嫌そうな表情で俺を見た。


「おいおい、どうして俺を見るんだよ」


「べつに」


 冷たい表情で俺を見る景は、なんだか怖かった。


「兄さん、さっき働きたいって言ってたよね」


「働きたいとは言ってない! てかお前聞いてたのかよ!」


 千代はいつの間にか景の隣にくっついている。


「お兄ちゃん、私たちふだんがんばってるじゃない? 年末くらい買ってきてくれても?」


 大きな目をぱちぱちさせながら千代が言う。


「兄さん」


 とどめに景が俺を鋭い眼差しで見つめる。


「ああ!! わかったよ行けばいいんだろ!」


「やったね!」


 なんとなくこうなることは予想してたが。


 俺は厳重装備をして、カップルたちが身を寄せる街の中ひとり、寿司を買いに行くのであった。

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