第17話 モテる妹は可愛い

テストが終わり、放課後の予定を実行すべく学校は生徒たちで賑わいでいた。


 それとは打って変わって、校舎裏はとても静かでまるで別世界だ。


「どうしてこうなってしまったんだ」


 俺は一人校舎裏でぽつんと立っている。


 後ろのほうには、校舎の陰に隠れている景がいる。


 ファイト、とでも言いたいのか握りこぶしを掲げて俺を見ている。


「はあ」


 ここまでくるとため息しか出ない。


 先ほどから誰も来る気配がないが、もしかしたら俺がいるのを遠くから確認して、帰ってしまったのでは?


 俺は腕時計を確認した。


「よし、後三分待ったら帰ろう」


 そう決心し、指を三本立てて景に合図した。


 おそらくよくわかっていないのだろう、景自身もなぜか指を三本立てて俺を見ている。


 そんな謎のやり取りをしていると、背後から足音が聞こえてきた。


「き、きたか」


 だんだん近づいてくるその少年は、金髪にシャツの出た制服、身長はおそらく俺より低いだろう、バッチの色からして景と同学年か。


「あれ、景さんのお兄さんじゃないですか」


 お兄さんと呼ばれたことに少々腹が立った。


 しかしここは大人の対応だ。


「ああ、そうだ。君が景の・・・」


「そうです! 俺、景さんのことが好きなんです! 妹さんを俺にください!」


「おいおい色々話をすっ飛ばし過ぎだ。落ち着け」


「あ、すんません。ところで俺は景さんを呼び出したはずなんすけど」


「あー、うん、それなんだが。景は誰とも付き合うことはできないんだ」


「えええ! どうしてっすか!」


「まあ、学校では天然でポンコツかもしれんが、知っての通り有名人でな。そんな時間もないし、変な噂が立っても困る」


「大丈夫です! 俺が景さんをしっかりお守りします!」


「いやそういうことではなくて」


 俺はふと景の方を見たが、困っている俺を見るのが楽しいらしい。ニヤニヤしながら俺を見ている。


「じゃあ、どうすれば景さんと付き合えるんですか、お兄さん!」


「まずそのお兄さんをやめろ!」


「え?だめっすか。」


「ダメだ」


「仕方ないっすね。じゃあ先輩、妹さんを僕に下さい」


「だから! その妹さんって言うのもくださいって言うのもやめろ!」


「じゃあなんていえばいいんすか!」


「あーーー”、全部だめだ! とにかく景は誰とも付き合わない、以上!」


 俺は嫌気がさして足早にその場を去った。


「俺、絶対いつかお兄さんにも認められる彼氏になって見せます!」


 去り際、そんなことが聞こえたが無視しておいた。




「兄さん、珍しく困っていたわね」


 帰り道、景が俺をからかうように言った。


「俺はああいうやつは苦手だ」


「普段仕事はそつなくこなす兄さんがあれだけわめくなんて、いいものが見れたわ」


「お前、やっぱり楽しんでたな」


 俺は景の頭をぐりぐりと両手で挟んでやった。イタイと言っていたが可愛かったのでしばらく続けた。


 乱れた髪を手で整えながら景が聞いた。


「兄さんは好きな人とかいないの?」


「好きな人? いねえよ」


「そう」


「なんだよ、いるように見えるか?」


「うーん」


 景は顎に手を当てて考えている。


「板谷先輩とか」


 思わず吹き出してしまった。


「俺が板谷を? ないない」


「そうなの? なんだかんだ仲いいし、マネージャーとしても受け入れたじゃない」


「まあそうだが、あいつにそんな感情はない」


「ふーん、私は先輩と兄さんが付き合うことになっても反対しないわよ」


「だからしないって!」


 全く景は何を考えているのかわからない。


「兄さんは、私が誰かと付き合ったら、いや?」


 夕日に照らされた景の顔が赤く染まっていた。


「ああ、いやだ」


「え、あ、そうなの」


 なんだか驚いたような反応をする景。


「ああそうだ。こんなかわいい妹を誰かに取られるなんて嫌だな。全力で阻止するし邪魔する」


「相変わらずのシスコンぶりね。ちょっと引くわ」


「おい!」


 隣を歩く景の表情は、少し笑っているように見えた。


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