第16話 売れっ子は今日も忙しい

 キーンコーンカーンコーン


 校内に鳴り響くチャイム。


 テストが終わり、歓喜をもらす生徒たち。


「日向~、放課後カラオケでも行こうぜ」


「悪い、今日は仕事が残ってて」


「またかよ~、たまには付き合ってくれよ~。ついでに妹たち連れてきてくれてもいいんだぜ?」


「お前らとは一緒に行かせねーよ」


 テストが一段落ついた俺だが、仕事に一段落なんてものはない。


 このテスト期間中も新しい企画に案件、メールのチェック、アポ取りなど勉強どころではなかった。


 そして最近、結局やることになってしまった格闘技を習いに行ったりと、俺の日常はてんこ盛りだった。


「お兄ちゃん!」


 教室で帰る準備をしている俺に、ドアから顔だけをだして千代が呼んでいた。


「どした?」


 俺はドアのところまで行き、千代に聞き返した。


「今日友達とショッピングに行くんだけど、いいかな?」


 千代は上目遣いで俺に近づいて聞いてくる。


 教室にいる生徒はみんな見ているし、そんな頼まれ方をすると断れない。


「はあ、いいよ。でもちゃんと変装はしていけよ」


「うん、わかった! 7時には帰るから!」


 ビシッと敬礼をして、千代は足早に去っていった。


 廊下の向こうにはぱっと見4,5人の生徒が千代に手を振っている。


「相変わらずあいつは、友達付き合いがうまいな」


 仕事でもそうだが、千代は裏表を感じさせない、不思議な雰囲気を持っている。


 そしてフェロモンを垂れ流しにしているかの如く、周囲の人を魅了し寄せ付ける。


「あれがお前の妹とは信じられんな」


 尾朝が、千代を眺めていた俺の肩をぽんぽんと叩いていった。


 俺は返事代わりに睨みつけておいた。




 カバンを持って教室を出ようとしたところで、景が待っているのが見えた。


「景か?」


「兄さん、今日の予定は?」


 いつも天然でふわふわした感じのある景だが、今はなにか真剣な感じがする。


「なにかあったのか?」


「ええ」


 ゴクリとつば飲み込んだ。


「私、ラブレターを貰ったみたいなの」


 ・・・・・・。


 数秒間の沈黙が流れた。


「ら、らぶれたー? ホントなのかそれは、よく読んだのか?」


「ええ、読んだわ。OKなら今日の放課後、校舎裏に来てほしいと」


 校舎裏とはベタなことをするなと思ったが、よく考えると千代はしょっちゅう貰っていた。


 千代の性格もあるのだろうが、はじめの頃は俺も頭を抱えたが最近は千代一人で対処している。


「千代に聞いてみたら、なにかいい方法があるかもしれない」


「そうね、先に千代ちゃんに聞くべきだったわ」


 軽く侮辱された気がしたんだが。


 景が千代を探しに行こうとしたところで、千代は遊びに行ったことを思い出した。


「待て景! 千代は遊びに行ったんだった」


「え」


 じゃあこの頼りない兄しかいないのかと言わんばかりの表情だ。


「どうしよう、もう放課後だし、やっぱり行ってはっきり断るしかないわ」


 俺もそれがいいと思ったが景のことだ、なにか上手く言いくるめられて騙されては困る。


「待て、景!」


 数メートル進んだ景は、不思議そうな顔で俺を見る。


「お、俺が行く!」


「え」


 勢いで言ったので、この先のことは考えていない。

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