第18話 俺の休日は今日もつぶれる

「これは・・・夢なのか・・・・」


 俺の隣には黒髪ミディアムヘアの女の子が寝そべっている。


 ゆっくりと手を伸ばし、その子の髪に触れる。


「これは・・・夢じゃない!!」


「・・・。キャアアアーーー!!」






 時をさかのぼって数時間前。午前9時。


「おにいちゃ~ん、先輩たち来たよ~」


 まだ意識がはっきりしない朝、千代がそんなことを言っていたのが聞こえた。


「う~~ん、入れといて・・・」


 はっきりとは覚えていないが、そんな風に答えた気がする。


「りょうか~い」


 スタスタと玄関に向かう千代。


 俺が覚えているのはそこまでだ。


 次に起きたときにはなぜか、板谷が俺の隣で寝ていたのだ。








 俺は赤く染まった頬をさすりながらリビングの椅子に座り、尾朝に聞いた。


「それで、俺は板谷に何をしたんだ」


 テーブルをはさんで向こう側には尾朝と木村、板谷とよこななが座っている。


「それはもう大胆なことを」


 尾朝がそこまで言ったところで、板谷が尾朝を睨みつけた。


「あー、いや、そこまで変なことはなかったぞ」


 尾朝はどうやら圧力がかかっているらしい。


「まあ簡単に説明すると」


 そこでよこななが話を割って説明を始めた。






 よこなな一行は今日、料理大会をする予定だった。


 その会場としてなぜかうちが選ばれたわけだが、俺はそのことをすっかり忘れていた。


 それでまだ夢の中にいる間に、千代がみんなを家に通したわけだが。


「あれー、日向君まだ寝てるの?」


「そうなんですよ~、今起こしますから」


「あー大丈夫だよ千代ちゃん。日向君も疲れてるだろうし」


「そうですか?」


 そういってみんなはリビングの椅子に座った。


「全く私の上司はー。私に朝から書類整理をおしつけておいて」


 板谷は荷物を椅子において、俺が寝ているベッドに近づいた。


「そういえば、だには日向のとこでバイト始めたんだよな」


 板谷は尾朝や木村に、いただにの語尾をとって「だに」と呼ばれている。


「そだよー。面倒な仕事押し付けられるし、今朝だってめちゃ早起きさせられたし」


 板谷は大きくあくびをした。


「でも給料そこそこくれるし満足満足」


 俺の隣に座り込んだ板谷は、布団を少しめくって俺の顔を布団からだし、ぺしぺしと顔をたたいている。


「起きろー社長!」


「厄介な部下だな」


 木村がスーパーの袋の中身をテーブルに出しながら言った。


 料理大会をするだけあって、テーブルの上にはみんなが来る途中で買った食材が次々と置かれている。


「う~~ん」


「え? なんか言った」


 板谷は俺の口元に耳を近づけた。


 次の瞬間、板谷は俺に手をつかまれ、そのまま体を倒した。


「きゃあ!」


 寝ぼけている俺につかまり、そのまま布団の中に引きずり込まれる板谷。


「た、助けて!だれか!」


「だにと日向がまたイチャついてる」


「ほんとだ」


「お兄ちゃん、板谷先輩のこと好きなんですね」


「違うーーー!!」


 板谷の声は届かず、そのまま抱き枕にされている。


「ちょっと日向君起きて! あ、こら、そんなとこ触らないで!」


「お兄ちゃん寝相悪いですからね~」


「千代ちゃんそんなところで見てないで助けて~」


「そうですね。そろそろかわいそうですし」


 千代は俺の鼻をつまみ、力強く握った。


 そこからは冒頭の通りだ。






「結局俺は板谷に何をしたんだ!」


 みんなはそろって目をそらし、


「さあ、料理大会始めるか~」


 と言い出し、各々動き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る