第74話 恩恵

アレクたちがミノタウロスに勝利したことは翌日にはウィンべルクに住むほとんどの冒険者たちの知るところとなった。


なにせ、あまりにも早すぎる。


アレクたちが冒険した総日数は、50日に満たない。通常であれば1年潜り続けてどうかというところである。期間としても半年弱でそれだけを考えても短いのだが週末しかダンジョンに潜っていないことを考慮すれば討伐までにかかった日数はぶっちぎりの最短記録であろう。


褒め称える者が大半であったが中には高額な装備、道具を用いた戦術を卑怯だと揶揄する者もいた。しかしそれはごく一部、それも実力の伴わない者による嫉妬であり、実力者ほど今回の件でアレクたちに一目置いたのであった。


アレクたちは自分たちがどのようにミノタウロスを討伐したのか、作戦を一切隠さなかった。

進んで話すわけではなかったが、聞かれたら答えた。

ほとんどの冒険者たちは話を聞いても試そうとは考えなかった。というよりも、資金が無く試せなかったというのが実情であった。当然、試せるだけの資金がある冒険者は実力でミノタウロスを撃破できるためこの作戦は不要であった。


そして話を聞きたがるのは冒険者だけではなかった。


「君たちが今話題のパーティ『金の有望株ゴールドラッシュ』のメンバーかね」


ミノタウロス討伐から1週間後、アレクたちはとある貴族の邸宅へ招かれていた。


アレクたちの眼前にいる人物はヨーグ・ヴェルコットといい、テオドラと親しい柔和な貴族である。体型はふくよかで温和そうな顔立ちは愛嬌があり、年齢は40台のはずだがかなり若々しく見えた。


「はい、おっしゃるとおりです、ヴェルコット伯爵」


「ヨーグでいいさ。ここでは皆そう呼ぶ。しかしテオドラから面白い若者がいると度々話には聞いていたのだが、まさかその若者がミノタウロスの最短討伐記録を塗り替えてしまうなんて思ってもいなかったよ」


僕が聞いていたのは商人としての評判だったからね、と付け足して笑う。

一見朗らかだが、アレクにはこちらの様子を探られているような気がして落ち着かなかった。


「ここにいるパーティメンバー全員の力ですよ」


謙遜しながらアレクは周りにいるパーティメンバーに目線をやる。貴族の邸宅に入り慣れているのはアレクぐらいで皆落ち着かないのかソワソワしていた。


「おい、ギル、壁に貼られている裸婦画ばかり見ているんじゃない。伯爵様の前だぞ」


「み、見てねえよ!何バカなこと言ってんだ!」


緊張をほぐそうと冗談を言ってみたがあまり効果はなかった。ミリア、ルミエラ、レイラの女性陣が引いた目でギルを見ている。


「ハッハッハ、私の前で冗談を言う余裕があるとは、噂に違わない大した胆力だ。さて今回君たちを呼んだのは他でもない。今後の活動について話を聞かせて欲しくてね」


そう言ってヨーグは眼光を鋭くして続けた。


「つまり、僕に君たちの冒険を支援させてくれないか?」


これこそが、アレクが無茶な戦いを挑んだ理由、その恩恵であった。

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