第72話 vs ミノタウロス⑧

「グアアアア……(バカ、ナ……)」


アレクの刀によって心臓から肩口まで斬り裂かれたミノタウロスがゆっくりと後ろに倒れた。


倒れた衝撃音が響いた後、血が流れ出す。


「ハア、ハア……やった、のよね?」


少しミノタウロスから距離のあるミリアが息も絶え絶えに呟く。常に動き回り狙いを絞られないようにしながら弓を引き続ける戦闘は想像以上に体力と神経を擦り減らしていた。


これでダメならこれ以上の戦闘は困難とそう思っていた。


「くっ、確認を、しなければ……」


レイラがハンマーを杖代わりにミノタウロスへ近づいていく。こちらも質量魔法を自分にかけて高速移動を可能にしていたため、マナの消耗が激しい。


最後の一撃ですべて出し切っていたので余力はなかったが、今最も近い位置にいるのがレイラ、次がアレクだ。この2人が確認する必要がある。

アレクは少し離れた場所に飛んでいってしまった刀をまずは拾いに行っていた。


レイラは真横まで来たがミノタウロスはピクリともしない。完全に絶命したように思えるが、念のためもう一撃加えてから確認しようとした。


その瞬間、ミノタウロスは急に立ち上がり、レイラに向け拳を振るった。


「レイラ!」


絶命しているか、動けても攻撃出来るわけがないと思っていたレイラは完全に無防備であった。


既に刀を拾っていたアレクだったが、ミノタウロスが起き上がろうとしたことに一早く気づいていた。


しかし、まだ少し距離がある。間に合わない!レイラが死ぬ!絶望的な未来がはっきりと見えた気がしたその瞬間。


アレクの視界が黒く塗り潰されていく。そしてミノタウロスとレイラの白い輪郭だけが浮き上がって見えた。


(なんだ、これは…?)


初めての体験にアレクは戸惑いを覚えた。


時間がゆっくりと流れているようで、映像ではまだミノタウロスが起き上がった瞬間であった。

予備動作が見えたのが一瞬前、感覚的には既に攻撃が完了していると思うほどの時間が経過しているが、そうなってはいなかった。


黒い世界の中で、ぼんやりとした黄色の光がミノタウロスの右腕と、頭を照らしている。そこにはそれぞれ『80』『20』という数字がユラユラと漂っており、光は右腕の方がより明るかった。


(なんだかわからないが、直感的にどうすればいいのかわかる……!右腕の光を狙えばいいんだな!)


今の位置からでは間に合わないと判断したアレクは、真っ黒な世界でゆっくりとレイラに向かう右腕の輪郭に向けて、全力で刀を投擲した。


刀はそのまま真っ直ぐに飛び、光っていた部分を貫いた。


ミノタウロスの右腕は横から飛んできた刀によって狙いが逸れ、レイラの顔面スレスレを掠めた。


レイラの頬から血が一筋流れる。掠めたことで出来た傷だが当たっていれば間違いなく死んでいた。


ミノタウロスの最後の一撃は不発に終わり、うつ伏せに倒れる。


腰を落としたレイラに代わり、アレクが近寄って確認する。


今度こそ完全に絶命していた。

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