第70話 vs ミノタウロス⑥

「格上の敵を倒すときに何を考えればいいか、か。なかなか難しい質問だな」


サイトウの弟子となって半年ほど経ったある日の修行後、アレクはサイトウに自分より強い敵の倒し方を尋ねていた。


「師匠より強い人はそういないかもしれませんが、昔から強かったわけではないでしょうし、どういった考え方をされていたのか気になりました」


「ハハッ、今でも儂より強い者なんざ腐るほどいるぞ。だがそうだな、昔儂も同じことを思い考え続けたことがあったな」


本来こういうのは人から聞くのでは無く自分で見つけ出す方がいいのだが、と前置きしたうえでサイトウは続けた。


「敵よりも準備をすること、虚を衝くこと、環境を味方につけること、の3点だと儂は思っている」


もっと漠然とした答えが返ってくると思っていたアレクは少し驚いたが、サイトウが続けた話を聞いてなるほどと思った。


「実力で劣っていたとしても、例えば事前に戦場に行って落とし穴を掘っておくとする。そして次の日それを自分だけが知っている状態で戦えばそれだけで既に有利だろう?浅い穴でも急に嵌れば隙が出来るからその時攻撃すればいい。そしてもし相手が凄く硬い魔物でこちらの攻撃が通らなかったとしても、極端な話100mの深さの穴に落としてしまえば勝てると思わないか?」


それまで剣の腕を磨くことに注力していたアレクにとって、これは霧が晴れるような考え方であった。

この考え方はミノタウロスと戦うための作戦を立てる際に大いに役に立っていた。


自分たちとの力の差はどこにあるのか、自己と敵を徹底的に分析してその差を埋めるための作戦を立てていった。アイデアは無数に出し、その中から実現可能なものを絞り込む。


そうして練り上げた作戦はここまで見事にハマり、ミノタウロスを追い詰めている。


しかし、まだ足りない。決定打を打てていない。


再生阻害の毒もいつまで効果があるかわからない。既に毒は使い切っている。

今のうちに大きなダメージを与えて一気に倒してしまわなければ…


そう思い、仲間たちに合図を送る。


最後の作戦。


これで倒せなければ撤退すると決めていたので、仲間たちの表情も険しい。

仮に撤退となると、その損害は計り知れない。今回の戦闘には大金を注ぎ込んでいる。失敗すれば命は助かるが、アレクの目論見より数年分計画が遅れることになる。


最後の集中力を、全員が漲らせる。

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