第68話 vs ミノタウロス④

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


再び空気を震わせるような雄叫びをミノタウロスが上げる。

事前に立てた策が想定以上に上手く行っていることに少し安堵しながらもアレクに余裕はなかった。


『ミノタウロスは怒り狂ってからが本番』とどのベテラン冒険者も語っていたからだ。


変化に対応出来るよう事前に仲間たちには言含めているが、それでも一瞬の油断が命取りであることに変わりはない。


「ギル!作戦通りに頼むぞ!」

「任せとけ!『ウォークライ』!」


ギルがミノタウロスに負けじと雄叫びを上げる。

注意を集める魔力を帯びた咆哮はミノタウロスの視線をギルへ向けた。


そのときミノタウロスの目に映ったのは真っ赤な盾。

ギルをすっぽりと覆い隠すほどの大きさで、後ろにいるはずのロイとルミエラの姿もチラリとしか見えない。


ミノタウロスはただでさえ興奮していたが、赤い盾を見た瞬間他のことを考えられなくなった。


(…破壊スル!)


漠然とそう思いながら、ギル目掛けて突進するミノタウロス。ロイとルミエラは恐怖を感じたが、盾を持つギルには怯えは無かった。


ドン!と鈍い音がしてミノタウロスが叩きつけた拳は一撃目同様に盾に当たった瞬間、逆方向へと同じ力で弾き返された。


吹っ飛びはしなかったものの大きく仰け反りたたらを踏むミノタウロスにレイラが飛び上がり頭へとハンマーを振り下ろした。


「倒れておけ!ですわ!」


ガツンと一撃くらい、再びミノタウロスが仰向けに寝転がる。またしても何が起きたのか理解できない。

圧倒的な力の差があることは、間違いがない。しかしあの赤い盾にすべて跳ね返されている。


(何ガ起きテイルノカワカラナイガ、アノ盾ノ力ナノカ…?)


そう判断したミノタウロスだったが、その考えに至る一瞬の間にアレクによって腹部を3度斬り付けられて出血している。反撃しようと振るった拳は空をきった。既にアレクの姿は近くになかった。


アレクはこの戦闘ではヒットアンドアウェイに徹している。隙があっても決して深追いしない。縮地による高速移動での斬撃は逃げに徹することも可能である。


実はミノタウロスが炎上する前も斬りつけていたのだが、その時は体毛に阻まれ、おそらくミノタウロスにも気づかれない程度の衝撃しか与えられていなかった。


ミリアの矢も的確に体毛のない部分を射抜き、ダメージを与えていた。

徐々に出血の量が増して行くのを感じながらそれでもなおミノタウロスは自分が負けるとは微塵も思っていなかった。むしろ血の気が少し引いて冷静さを取り戻していた。


そして、自分の体の異変に気がついた。

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