第67話 vs ミノタウロス③
時は遡り、ミノタウロスと戦う1週間と少し前、アレクはミノタウロスの情報集めを続けていた。作戦の勝率を高めるべくより多くのベテランから話を聞きに酒場を訪れていた。
「ミノタウロスの強さだぁ?そりゃおまえ、刃を通さねぇあの剛毛だろうよ。毛さえ無ければ一応刃は通るし傷も付けられるんだがな」
「ただでさえ攻撃力が高そうなのに、防御は毛ですか…ライアンさんはどうやって奴を倒したんですか?」
「俺の時はレベルを15まで上げた6人パーティで打撃武器で殴り倒したよ。打撃は通るからな。おまえさん見たところまだ10レベルくれぇだろ?それでミノタウロスに挑むのは無謀ってもんだぜ」
「…そうですね、ご忠告ありがとうございます。ちなみに、もしミノタウロスの毛を無くそうと思ったらどんな手段がありますか?」
「そんなもん自分で考えろよ、と言いたいところだが奢ってもらって気分がいいから特別に話してやるよ」
そういって中堅冒険者のライアンはジョッキに残っていた酒を飲み干して、続けた。
「燃やすんだよ」
「燃やす?…炎魔法ですか?」
「そうだ。それも中級魔法でな。大体15レベルくらいの奴が撃てば一部焼け焦げて斬撃が通るようになる。そうなればあとは長期戦でなんとかできるな」
「なるほど…」
アレクは少し考え込む。ロイは風魔法が得意で炎魔法を短期間で覚えさせるのは難しいし、向いてない。ルミエラはそもそも攻撃魔法が苦手だ。
しかし、何も火をつけるだけなら魔法に拘らなくてもいいのではないか?燃えやすいもの、そう例えば油をかけて火をつければ…
「ライアンさん、ありがとう。ここのお代は約束通り俺が払いますよ」
「おう、頼んだぜ。今月は博打でスッちまってよぉ。すかんびんなもんだから助かるぜ」
ガハハ、と2人で笑い、酒を飲み交わす。そんなこんなで手に入れた情報だったが、戦闘開始早々上手く決まったことでアレクは内心でライアンに礼をつぶやいた。
ミノタウロスは混乱しながらも火を消そうと暴れ回り、床に体を擦り付けている。しかし純度が高く大量の油は全身にかかっており、そう簡単に火は消えなかった。
暴れている間アレクたちも手が出せなかったが、ミリアだけはダメージを与えられればラッキーと矢を放ち続けていた。
他の仲間たちは次の攻撃に向け各々の準備を整えた。
しばらくして火が完全に消える頃にはミノタウロスの体毛の一部は焼け焦げ、皮膚が剥き出しになっていた。
眼球も燃えていたようで、左目はぐじゅりと溶けて落ちかけている。
それだけおぞましい姿になりながらもミノタウロスの戦意はいささかも衰えておらず、むしろ怒りに震えていた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
部屋全体がビリビリと震えるほどの大声にアレクたちは耳を塞ぐ。
ミノタウロスもアレクたちを完全に敵と見なし、怒りながらも冷静に観察するようになっていた。
「さて、第2ラウンドと行こうか…!」
アレクは自分を鼓舞するように呟いた。
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