第66話 vs ミノタウロス②

確実に仕留めた、そう思っていたミノタウロスは自身の身体が宙を舞い、背中を地面に打ちつけてなお何が起きたのか理解できていなかった。


ミノタウロスは知性の高い魔物である。人間に近い思考能力があり、ある程度戦略的に戦いを進めることが出来る。

そして今回の敵に対しても自分より遥かに弱いと判断し、舐めてはいたが油断はしていなかった。


(一体、ナニガ起キタ…?)


そう考え、身を起こさなければと咄嗟に判断したそのとき、口の中に何かが投げ入れられ、思わず飲み込んだ。


次の瞬間、喉の奥が爆発した。


「グオオオオ⁉︎」


喉が焼け付くように痛い。痛みを堪えながら追撃に備え無理矢理立ち上がる。

アレクが立ち上がろうとするミノタウロスの目を目掛けて斬りかかってきたがなんとかこれは腕で叩きそらした。


次の瞬間脳天にハンマーが振り下ろされ、立ち上がろうとしたミノタウロスは再び片膝をついた。


「グウウッ」

「よし!ロイ、ルミエラ、今だ!」


ロイとルミエラは部屋に入場した時から詠唱を始めていた。最大限の効率、最高のタイミングで放つために。

アレクから声がかかる数瞬間前、


「『ウォーターボール』」


ロイの杖先に巨大な水球が浮かぶ。ウォーターボールはどちらかといえば生活魔法として使われることが多く、戦闘で使う機会はあまり多くない。魔物はこの程度の水量ではぶつけられても死なないからだ。


しかし、今回は用途が違う。


「『オイルショック』」


ロイのウォーターボールめがけて、ルミエラが新しく覚えた呪文を放つ。


『オイルショック』は水を油に変える魔法で、これも戦闘で使われることはあまり多くない。そもそもアイテムバッグに油を入れておけばいい話なので、ダンジョンに入る冒険者でわざわざ覚えている者は稀だ。


ロイの杖先のウォーターボールの水が油へと変わる。これで準備完了。そして、アレクの掛け声と共にロイはミノタウロスめがけてウォーターボールを放った。


「くらえ!」

「合体魔法、よけないでね」


レイラからハンマーの一撃をくらい片膝をついていたミノタウロスにウォーターボールがぶつかる。腕で払ったが関係なく全身油まみれとなった。


「グウウ?」


臭いは臭いがダメージはまるで無い。なにが起きたのかと考えようとしたその時、ミノタウロスの全身が燃え上がった。

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