第62話 大株主

翌週アレクは仕事で再びテオドラの元を訪れていた。

落ち着いた部屋の中央に鎮座する机越しに二人は打ち合わせを続けていたが、それも先程終わり今は雑談へと移っている。


「そうか、冒険事業はまずまず順調なのか」

「ええ、おかげさまで今の所は大きな怪我もなく探索を続けることが出来ています」

「みんなそれぞれに仕事があるから、穴を空けれないもんね。もし大怪我をしたらどうするつもりなんだい?」

「そのときはもったいないですが高額の治療薬にすがるしかないですね」


テオドラはアレクの冒険話に興味津津という様子であった。なにせ雇われ商人をしながら冒険者を副業で行う人間なんて聞いたことがない。


自分が迷宮で手に入れた物品を売ることで生計を立てる人間は見てきたが、それとはまったく違う。雇われ商人であることのメリットを存分に活かすことが出来るこのスタイルはとても興味深いものだった。


「君にも驚くけど、それを許可するサルマンも大した人物だよ」

「彼は自分の利益になることをノーとは言わない人間なので」


アレクは冒険者を始める前に一度商会の主であるサルマンの元へ直接許可を取りに行っている。反対されるかもしてないと思っていたが、意外にも答えは「面白い。やってみなさい」というものだった。


サルマンが何を考えているか読みきれない部分はあるものの、アレクにとっては追い風となったため特に追求はしていない。


「まあ、色んなことを考えているんだろうね。ところで、今回の商談はいつもと違って内容が薄くなかったかい?この内容であればいつもならステカでのやり取りで済ませていたように思うのだが」


そこらの貴族とは違い、さすがにテオドラは鋭い。恐らくこちらの意図も見透かされているなと感じたアレクはこちらから切り出すことにした。


「ええ、お察しの通り、今日は仕事以外の個人的なお願いがあって訪れました」

「今のアレクくんが個人的に私に頼み事をするとしたら冒険に関することだね。そして、恐らく金のことだろう」

「…そのとおりです。テオドラ様には我々のパーティ、もとい株式会社に出資して頂きたいのです」

「うん?株式会社?どういうことだい?」


アレクはこれまでの経緯と今後の構想を事細かにテオドラへ説明した。自分の計画が優れており、テオドラに損をさせないということも強調して伝えた。今回テオドラに出資してもらいたい金額も、使い道とともに説明している。


「なるほど…たしかにその計画は面白いな」

「この計画を実現させる第一歩が今回のミノタウロス討伐になります。どうか我々に力をお貸しください」


そう言ってアレクは頭を下げた。今回の討伐にはテオドラの協力がなんとしても必要になる。ここが正念場だった。


「頭を上げてくれ。私は自分の利にならなければ頭を下げられてもイエスとは言わないよ。そして、今回の案件は投資するに値すると判断した」


アレクは思わず顔を上げた。机越しのテオドラが愉快そうに微笑んでいる。


「君が先程要望した金額だが、話を聞いている限りちょっと足りないんじゃないかな。倍の2000万ルピーをまずは出そうじゃないか」


さすがのアレクもこの金額には驚きを隠せなかった。感謝を伝えるとともに、計画で最大の関門をまずは突破出来たことにホッとした。

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