第61話 レベルと個性

ダンジョンの前に転送された一行は思わずへたり込んだ。


「何なのよあれ!やばすぎるでしょ!最後なんか鳴き声も変わってたし!」

「興奮状態になると鳴き声も変わると聞いたことがあるな…いや、しかし実物は噂で聞いていたのと全然違ったな。やっぱり生で見ないとだめだな」

「あんな化け物目の前で見てなんでそんなに冷静でいられるのよ!」


興奮冷めやらぬミリアに対し、アレクは既に視界に映った情報を思い出しながら構想を練っていた。


「僕の魔法もミリアの矢も通用しない。至近距離で戦うには今の僕らでは装備もレベルも不十分だね。あれを倒そうと思ったらしばらくはレベル上げに励むしかないんじゃないかな?」


ロイの言う通り、ミノタウロスの適正レベルは6人パーティの場合平均15レベルだと言われている。

アレク達が挑むにはまだ早すぎる相手であった。


「今のレベルから15まで上げようと思うと、狩場のレベルが低すぎて1年はかかるぞ」


アレクはミノタウロス打倒の方針を考えながらそう答えた。


ダンジョンには『同一階層、同一レベルの法則』と呼ばれる原理がある。これはレベルを数値化した際に意図的にそうしたものと思われるが、7階層なら適正レベルは7、15階層なら適正レベルは15といった具合に階層とレベルの値が相互に関連しているというものだ。

ちなみに、この法則は6人パーティの平均レベルを基準としている。


もっともこれは大まかな話で実際は個人の戦闘技量やパーティの連携などにもよる。

いずれにせよ、冒険者ギルドではレベル差のありすぎる階層探索を推奨していない。


そして問題となるのが、ミノタウロスを倒せる強さまでレベル上げをするためにはミノタウロスを倒して先に進まないと効率が悪い、という点だった。


10階層以下の階層で15レベルまで上げるにはとてつもない数の魔物を倒す必要がある。それにかかる時間をアレクは懸念していた。


「そうは言っても別のダンジョンとかで地道にレベル上げするしかねぇんじゃねぇか?」


ギルの言うとおり、他のダンジョンの10階層より深いところまで潜れば効率的なレベル上げは可能ではある。しかし、これにも問題があった。


「俺の集めた情報によれば、ダンジョンの10階層ってのはどこも鬼門でな。ミノタウロス相当の強さのボスがどこのダンジョンにもいるみたいなんだ」

「それでは探索場所を移しても無意味ですわね…」


10階層が初心者と中級者を分ける壁と言われるものそのためだった。大抵の冒険者はここで焦って無謀な戦いを挑み命を落とすか、大怪我をして冒険者を辞めてしまう。


一部の冒険者は地道にレベルを上げてこの関門を突破する。こうした地道な努力が出来るものは結果長く冒険家業を続けることが出来る。


そして、残る一握りの冒険者はというと


「いや、ここで無駄な時間は使わない。ミノタウロスさえ倒せばその後は今のレベルのままでもスルスルと進めるからな。知恵と、金の力で突破する」


自分たちの個性を武器に、王道とは言えない方法で突破を図りにかかるのだった。

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