第49話 レイラ・クレストア③

「結局よう、なにが原因で貴族位を取られちまったんだ?格下げならわかるが、いきなり平民てのはよくわからねぇ」


ギルが素朴な疑問を口にする。


「…借金と質量魔法の消失が原因です。後から詳しくお話ししますが、わたくしが質量魔法を使えることはあえて隠していました。その状態で事業に失敗して多額の借金を抱えたことで、貴族の資格なしとみなされたのです」


「だとしてもいきなりすぎないか?貴族が借金抱えるのなんて時々聞く話だが、それで平民にされるなんて聞いたことがねぇ」


たしかにギルの言う通りだった。理由としてわからないことはないが、前例は恐らくないのではないだろうか。

それだけに不可解さが残る。


「それは…わたくしにもわかりませんの。国の十二大臣様と国王様の決定ですので」


クレストア家の当主であったレイラの父は何度もかけあったそうだが、てんで取り合ってもらえなかったという。事業に失敗したとはいえ無慈悲な心のない処置だったといえよう。


「現在父は精神的にまいってしまって寝込んでおり、母と妹がその看病をしながらこれまでの資産と切り崩して生活しています。しかし、借金を返済するのに大半を使い切ってしまいましたので、その資産も残りわずかなのです」


「すぐにでも稼ぐ必要があるのはわかった。だが、さっき『5年以内に1億ルピー』は条件の一つと言っていたな?他にも何か条件があるんじゃないのか?」


アレクはレイラの発言を聞き逃さなかった。そもそも貴族に復位させるメリットがあまりないのだから他にも条件を設定されているのだろう。


「いくつかあるのですが、その中でも個人的に特に重たいのが、婚姻です」


「「婚姻?」」と仲間たちが疑問の声を重ねる。


「跡継ぎを残すために、5年以内に貴族か貴族にふさわしい殿方と結婚すること。そしてその後5年以内に子を授かること、それが復位の条件となっています」


「なんだか、古い考え方だけどクレストア家に関しては質量魔法のことを考えるとわからなくもないね…でもそもそもレイラさんは質量魔法を使えるのでしょう?公開すれば貴族でいれたんじゃないのかい?」


ロイが聞いたことはレイラ以外この場の全員が疑問に思っていたことだった。レイラが質量魔法を使えるのであればそもそも何の問題もないのではないか?ということだ。


「…これは確信のある話ではありません。わたくしの妄想で事実はまったく違うのかもしれません。ですが、真実であった場合、わたくしの命が危ないので、これまで質量魔法が使えることは隠してきました」


急に話が一段階重々しさを増した。聞かないほうが安全だと叫ぶ心の声をアレクは押し殺して続きを促した。


「我が一族は、エンペスト家に呪いをかけられているかもしれません」

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