第44話 厄介事の予兆

「エンペスト家?聞いたことないけど有名な貴族なの?」


「いや、ウィンベルクにいたらそんなに名前を聞くことはないんじゃないかな。このレストラン貴族も時々来てるって聞くからミリアならなにか知ってるかと思ったんだけど」


「うーん、たしかに時々貴族の人も来るけど聞いたことないわ。悪いわね力になれなくて」


カスターユから帰った翌日の昼ごろ、アレクはミリアの働くレストランを訪れていた。


ちなみに今週のダンジョン攻略は休みとなった。前回の冒険で痛んだ装備の改修と休養のためだ。焦ってはいけないとアレクは前回の冒険から自分に言い聞かせている。


食事を済ませ、テオドラから聞いた話のウラを取ろうと情報収集のためにミリアに話を聞いていた。


「まあアドリアはここから少し距離もあるし、知らなくて当然だな。ご馳走様。美味しかったよ」


「今日はあたしは給仕の日だけど、今度は厨房のときに食べに来てよね!」


ミリアは将来、自分の店を持ちたいと思っている。それも一流の店を。そのためには給仕の知識も必要ということで、厨房入りを認められた今でも週に1日ほど給仕の仕事をしていた。


アレクは店を出て大通りを歩いていく。そのまま真っ直ぐ行けば自宅の方向だが、途中で右に曲がり細い路地に入って行った。


路地裏と言えるだろう細い道をしばらく歩いてから、おもむろに後ろを振り返る。


「で、朝からずっと俺の後をつけているおまえは誰なんだ?俺に何の用だ?」


振り返った先には黒いローブを頭からすっぽりと被った何かがいた。身長はアレクより低いが、男か女かわからない。


アレクから数メートル先にいるが、襲いかかられても対処出来るようアレクは少し重心を落として身構えた。


「後をつけたのは、あなたに協力してほしいことがあるからですわ」


そう言ってその人影はローブを取った。

中から現れたのは長い金髪を後ろで束ねた美少女だった。歳はアレクたちと同じか少し下くらいだろうか。


小さな顔に大きな青い瞳が絶妙な配置で乗っており、小ぶりな鼻と厚い唇は思わず目を引かれる。

滅多にお目にかかれない美少女だった。


「申し遅れました、わたくしの名前はレイラ・クレストア。クレストア家の第1子で次期当主になります。折り行ってあなたに頼みがあります」


集めようとしていた情報が向こうから飛び込んでくるとは…とアレクは驚くと同時に、とてつもない厄介事が舞い込んで来た予感がして、思わず身震いした。

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