第42話 貴族と領地
「ふむ、そうか。エンペスト家についてアレク君はどんなことを知っているかね?」
「ウィンベルクから見て北東、このカスターユの北に位置する街『アドリア』を治めている貴族としか…商売に訪れたこともないですね」
アドリアは周囲を森に囲まれた街で林業が盛んだとは聞くがアレクはまだ行ったことがなかった。
「アドリアは緑に囲まれた小さな街で、彼らの領地はその中と周囲の森の一部までだった。彼らは子爵家だから伯爵家よりも小さな領地を与えられていたんだね」
「いた?過去形ですか?そういえば、近々国の領地改編が行われると聞きましたが、もしかして…」
「流石に勘がいいね。そもそも一部の貴族しかまだ知らない情報のはずなんだがな…推測通りエンペスト家は1階級昇進で伯爵家になる」
アレクが住むこの国は『リステンベルク王国』といい、中央にある王都『ドラポーネ』を中心に×の形に四つの領地に切り分けられている。その4つの領地全体を管理しているのが国王と国王に選ばれた12人の大臣で、国全体の政務は彼らが司る。
12人の大臣は特別な役職のため、貴族位では「公爵」の位となる。国王を除けば国の最高権力者となる。
また4分割された4つの領地にはそれぞれに名前があり、領地を治める辺境伯が1人ずついる。そしてその中がさらに伯爵の領土である州に分割され、州の中の街を子爵が治め…というように貴族たちによって段階的に施政が行われている。
貴族達は徴税や裁判、治安維持などを主な業務とするが、テオドラのように商売を行う者もおり、最低限の納税と治安維持が行われていて領地が安定していれば特に何をしてもよいことになっている。
いわゆる貴族特権というものも独自に発行が可能だ。ただし、悪徳領主は領民の反感を買いやすく、長続きしないことを歴史が証明しているため滅茶苦茶なことをする貴族は少ない。
「エンペスト家が昇格するということは一つ降格する家が出たわけですね。どこなんですか?」
辺境伯以下、貴族の家の数は等級ごとに決まっている。そのためエンペスト家が昇格するということはその席に座っていた伯爵家が一つ降格することになる。
これはより力のある家が大きな領地を管理すべきという国の方針で決まっているのだが、頻繁にあることではない。
入れ替わりが起こるのは国全体でも10年に1、2件だ。
あまり頻繁に管理者が変わるようでは安定的な統治など望めないため、よほどのことがない限り変わることはない。
ましてや伯爵家が降格するのはとても稀なことだった。
「クレストア家だよ」
歴史的な名家の降格にアレクは驚きを隠せなかった。
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