第32話 投資先

「で、それはいいとして、1000万も使って何しようってんだ?俺たちまだまだひよっこ冒険者だしそんな高価な装備使ってもすぐだめにしちまいそうなんだが」

普段はお世辞にも賢いとはいえないギルだが鍛冶師なだけあり、装備に関する意見は的を射たものだった。


「装備には大金をつぎ込むぞ。武器はあまり強すぎても自分たちが鍛えられないから、防具を強化する方向だな。なにせ死んでしまったら意味がない」

アレクの言う通り、強すぎる武器を持った結果武器に頼りきりになってしまい腕が上がらない冒険者というのはそれなりにいるのだった。


「でも防具が強いと慢心するんじゃないかしら?」

「自分の給料数ヶ月分の防具がすぐに壊れたら嫌だろ?」

「…あたしは必死に回避することにするわ」


ミリアは高価な装備を身に着けた自分を想像して納得した。


「あとは魔導書だな。高価で本来初級冒険者にはなかなか手が出ない代物だが、ここには大金を投資していいと思っている。ロイとルミエラ一人当たり100万ルピーずつ予算を割こう」

あまりの額に二人は目を丸くした。


「ひゃ、100万ってどんな魔法を覚えさせるつもりなのさ」


ロイの疑問は当然だ。魔導書は10万ルピーから高価なものだと数億ルピーのものまでピンきりだが、初級から中級レベルの魔導書はせいぜい50万ルピーほどだ。

魔導書は読んで理解することで魔法を覚えられる書物だ。一度使ったら魔導書に溜まったマナが抜けて二度と使えなくなるため高価なものとされている。ロイの覚えていた『ウインドカッター』は風属性の初級魔法だが、これは唯一人類が書くことができた『基本の書』と呼ばれる魔導書を読んで覚えたものだ。

基本の書は読んだ人間の最も得意とする属性の一番基本的な魔法が使えるようになる魔導書で、人類が初めて量産化に成功した魔導書でもある。得意属性の判別にも使える優れものだが、予備校ではタダで使わせて貰える。

それ以外の魔導書はダンジョンに時折現れる宝箱などから入手できる。


「ロイは攻撃魔法を、ルミエラには補助魔法をそれぞれ幅広く覚えてもらいたい。とりあえず100万ルピーで5,6個くらい覚えてくれたらそれでいい」

「わかった。がんばる」


グッと拳を握ってやる気を見せるルミエラと、いきなり100万ルピーも使うのかと顔がひきつるロイの対象的な反応をする二人だった。

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