第31話 カブシキガイシャ

「カブシキガイシャってなんだっけ?なんか教会で習ったような気もするんだが…」


ギルの疑問にロイが答えた。


「簡単に言うと色んな人からお金を集めて、そのお金を元に商売をする仕組みかな。例えばアレクが働いているサルマン商会も株式会社なんだけど、貴族や他の商会からお金を貰って、その代わりに株券を渡すんだ。で、サルマン商会が儲かったらそのお金を株券を持っている人たちで分け合うんだよ」

「なるほどなー。でもそれって商売の話だろ?なんで冒険者パーティをカブシキガイシャにする必要があるんだ?」


ギルの疑問はもっともで、この国では100年位前から株式会社はあったが、冒険者パーティを株式会社にするのは前例がないことだった。


「みんなの疑問はわかるから順に説明しようか。まず株式会社にする理由だが、金を集めやすくなるからだ。

最初はこの五人が出資者だが、いずれは貴族や商会をパトロンにして金を集め、その金で冒険するつもりだ」

「待って、全然意味がわからないわ!冒険者が貴族からお金をもらうってそれただのお抱え冒険者か、クエストを受けて報酬をもらうだけじゃないの?」

「お抱え冒険者は貴族に召し抱えられたいわば部下の扱いだ。成功報酬を目的に貴族の依頼を受ける冒険者もいるが、それは日雇いのようなものだ。具体的な違いは今言った2つのケースでは冒険者はお金を受け取る側だが、株式会社化すると稼いだ分の金を出資してくれた人たちに分配することになる」

「稼いだ金を他のやつに渡しちまうのって勿体なくねぇか?」


ギルの疑問にルミエラがこくこくとうなずいた。同じ考えだったらしい。


「たしかにギルの言う通りなんだが、てっとり早く強くなるにはレベル上げより装備を高級なものにするほうが早い。そのために大金をもらって初期投資して稼ぎの効率を上げて、お金を返していくってイメージかな」

「借金じゃだめなの?なんでそんな面倒なことするのよ」

「借金じゃ借りられる金額に限りがあるからだよ。もっとも、俺たちの考えに賛同して応援してくれる人をこれから見つけていかないといけないんだけどな」


一応、アレクには何人かお金を出してくれそうな人物に心当たりはあったのだが、ある程度結果を出して将来性を認めさせる必要があった。


「いずれにしても、それは俺たちがもっと結果を出してからの話だ。直近ではこの5人が出資者兼創業者になるわけだな」

「出資者っていっても、いくらずつ出したらいいんだい?」


ロイが聞いたことはアレクが一番言い出しにくいことだったので、聞いてくれたのはありがたかった。


「まずは言い出しっぺ兼リーダーとして俺が200万ルピー、そして4人には100万ルピーずつお願いしたいと思っている」


えっ、と4人は思わぬ投資金額に驚く。アレクは内心で断られるかもしれないなと思っていた。


100万ルピー、出せない金額ではないがかなりの大金だ。これまでそれぞれ苦労して溜めただけにポンと払うには抵抗があるだろう。アレクはそう考えていた。

ギルが立ち上がりアレクの胸ぐらを掴んだので、そんなに出せるかと殴られることをアレクは覚悟したのだが、


「おい、俺たちを馬鹿にしてんのか。冒険者になるっていうおまえの誘いに乗ったときにな、4人ともこの道で成功する覚悟決めてんだよ」


ギルの予想外の言葉にハッとさせられた。彼らはアレクのために冒険者になったわけではない。そんな彼らに対し、不要な遠慮をしていたことに気付かされた。


「水くせえこというなよ。全員200万ルピーずつ出せばいいじゃねぇか。そしたら全部で1000万ルピーでキリもいい。アレクは一番頭がいいし、これまで色んなところでみんな助けられてきたんだ。こんなところまで責任を背負い込もうとするなよ」


そう言ってギルはニッと笑った。ルミエラ、ロイ、ミリアの三人がうなずいた。


打算的な考えを持っていたことが負い目となり、変な遠慮をしていたな…

そう感じたアレクは己の考えを反省し、そして気持ちを切り替えた。


「すまん、200万ずつ俺の考えに投資してくれないか?」


もちろん!と全員が答え、ここに世界初の冒険を生業とする株式会社が誕生した。

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