第2章 本業×副業×投資=大金

第28話 新たな冒険はミーティングの後で

アレクたち5人は初めての冒険の翌日からそれぞれの本業で忙しく働いていた。そして3日後の夜に再び金の豚の丸焼き亭に集まって、次の行動に向けたミーティングをしていた。


「さて、前回の冒険から3日経ったけど疲れはみんな疲れは取れたか?」

「取れたっていうか、なんか次の日妙に体が軽かったのよねー。あれがもしかしてレベルアップってやつだったのかしら?」

「ああ!どおりで鍛冶仕事でハンマーが軽く感じたわけだ!予備校でダンジョンに潜るとレベルアップするって言ってたのはほんとだったんだな!」

「国の機関が嘘ついてたら、おしまい」

「僕はあんまり感じなかったんだけど…成長の仕方は人によるのかな?」

「あー、そうだな。ダンジョンに潜ると強くなれるのはみんなも知ってると思うけど、理屈を説明しとくか」


そう言ってアレクが話し始めた内容は一般常識とそうでないものが両方含まれていた。


「まず、レベルってのは数年前にステカを発明した天才魔導士ハンナ・グレイセスが考えた概念で、それまでは名前なんて無かったんだ」

「ダンジョンにずっと潜ってると超人になれるっていうのはみんな知っていたけど、ハンナがそれを言語化、数値化したって当時学会で話題になっていたね」

「ロイの言う通りだ。ダンジョンに潜ると濃いマナに晒され続けることになる。そのマナを吸収していくと生き物は変質していくんだ。動物や植物などが変質すると魔物になるが、なぜか特殊な例を除いてヒューマン、ドワーフ、エルフ、獣人などの人族は魔物にならない。脳の構造が複雑だからなのか、マナの許容量が多いからなのか説は色々あるが、原因はまだ特定出来ていない」


最近は有力な説も出てきているが、まだ原因を特定しきれていないため、首都の研究者達がこぞって研究に励む注目分野でもある。

この研究が進めば効率的に冒険者が強くなれるからである。


「私たちはヒューマンだから脳の構造が単純なギル以外みんな大丈夫ってわけね」

「誰が単細胞だよ!というか冒険の途中で魔物に変質するようなやつと冒険するの嫌だろ!」

「ギルうるさい、アレクの話聞け」

「俺が何したっていうんだよ…」


落ち込むギルを横目にアレクは話を戻した。


「話を続けるが、実はダンジョンにただいるだけで吸収できるマナっていうのは微々たるものでな。これはどうも指向性を持たないからっていうのが理由らしい」

「しこうせい?なに、それ?」

「要はマナが体に入って少しだけ吸収されて、大部分は外に出て行っちゃうんだ。だからダンジョンをただ歩いてるだけじゃ効率がかなり悪い。何かしらの負荷をかけたほうが伸びるんだな。要は筋トレみたいなもので、負荷が大きいところが鍛えられるんだよ」


あっ、とロイが驚いた声をあげた。


「そうか、だからミリアやギルは体が軽くなったり力が強くなったのに僕やルミエラは何も感じなかったのか」

「恐らくダガーと弓を持ってミリアは動き回っていたから動きが速く、軽くなって、ギルは盾や剣を使い続けたから力が強くなってる。だから同じ理屈でロイとルミエラの2人も魔力量が増えているはずだ」

「教師の仕事じゃ魔法を使わないから気づかなかったのか…」

「で、ここからが本題なんだが、マナを大量に吸収して変質した魔物を倒すと濃縮されたマナが溢れ出て一気に吸収されるんだ。それでみんなレベルアップしたんだな。ダンジョンに潜ったことでステカの特殊機能が解放されてるはずだからみんな自分のレベルを見られるぞ」

「そんな機能あったのか!ハンナってやつはほんとすげぇな…」

「まあレベルの確認は後にしてくれ。俺がゴブリン討伐依頼を最初の依頼にしたのは、金を稼ぎながら手っ取り早く強くなれるからだ。それが理由だ」


アレクはいかに効率よく潜るかこの1年間情報を集めて考え続けた。そして1つの結論に至った。


「俺たちは採取や救助といった依頼を基本受けない。討伐依頼オンリーで最短で強くなって、稼ぐ」



「ひたすら戦って、一気にレベルを上げちゃうってことね…でもそんな単純に行くのかしら?それが一番なら他の冒険者もそうするんじゃない?」

「他の冒険者がそうしない理由は、例えば採取はお金と一緒に採った素材を一部貰える、救助は純粋に成功報酬が高いなんていうのがあるんだが、これらはお金稼ぎの側面が強いんだ」

「なるほど、つまり本業の稼ぎがある僕たちはそういった依頼をこなす必要がないのか…」

「その通り。本業で稼いだ資金を装備や道具に投資して、より強いモンスターと戦ってレベル上げてさらに強くなる。これが俺の考えた作戦、その名も『稼ぎ全ぶっこみダンジョン攻略大作戦』だ」

「そのまんまじゃねぇかよ…まあアレクが言いたいことはなんとなくわかったけどよ、じゃあ今週末の冒険はどうするんだ?」

「そんなの決まってるだろう?」


アレクの当たり前のようなセリフに全員嫌な予感がした。


「荒野の洞窟5階層の中ボス『ジャイアント・トード』の討伐だよ」


通常の冒険者なら準備から討伐まで1ヶ月はかけるであろう目標を2日でやると言い切ったリーダーに、顔が引きつる4人の仲間たちだった。

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