第26話 初めての冒険、それぞれの感想〜ミリア〜

「ただいま〜」

「あ、ねーちゃんおかえり!」

「おかえり、ミリア。冒険は大丈夫だった?」

「大変だったけど何とか乗り越えたわ…あ、ちょっと待っててね、これからご飯作っちゃうから」

「いつも悪いわね、ミリア。お母さんが元気だったら…」

「そんなこと言わないで。お母さんとカイルがいるだけで私幸せなんだから」

ミリアは自宅に帰ると疲れた体の休みたい!という声は無視して家族のために料理を始めた。

6歳の弟カイルと体の弱い母を支えるために、ミリアは働いている。亡き父が料理人だったことから自分も料理人を志したが、今の収入だけでは生活はできても将来自分の店を持つという目標には程遠かったのでアレクの誘いに乗ることはあまり悩まなかった。


「おいしい!やっぱねーちゃんのりょうりはプロなみだ!」

「ほんとに美味しいわ、もうお店でも料理してるのかしら?」

「まだホールだけど、今度師匠が料理の修行つけてくれるって言ってたの!そしたらまたたくさん美味しい料理作ってあげるからね!」

ほんと!?やったぁ!と喜ぶ弟の姿を見てミリアは今まで感じていた疲れが嘘のように幸せな気持ちで満たされた。


「ねーちゃん、ぼうけんのおはなしきかせてよ!」

「えー、そうね、じゃあお姉ちゃんが弓で魔物を射抜いた時の話でもしちゃおうかな!」

目をキラキラさせて自分の冒険譚を聞く弟と、その光景を微笑ましく見つめる母の姿に家族っていいなと改めて実感する。


自分の店を持つことは、父と母の悲願でもあった。

ミリアの父はミリアが幼い頃からこう話していた。

「俺は子供のころ貧しくてよ、ろくに食えなかったんだ。あるとき街一番のレストランのゴミ箱漁ってたらその店のオーナーが裏口から出てきてな。怒られるかと思ったら「なんか作るから中入れ」って言って、閉店後のレストランに入れてくれたんだ。そこで食べたシチューが忘れられなくてなあ。料理人になりたいって強く思ったのもその時でよ。自分も貧しい人に施せる位の余裕と、その人の人生を前向きにしてあげられる料理を作れる料理人になりたいって思ったんだよなあ」

まあ、あの時のシェフの腕前に比べたらまだまだなんだけどな!と照れ隠しする父の顔を見ながらミリアも幼いながら、『自分もそんな料理人になってお父さんと一緒にお父さんのお店で働きたい』と思っていた。


そんな父が夢半ばで病気で倒れた5年前、父親の墓前でミリアは父の分まで夢を叶えることを誓った。

「あたし料理人になって、自分の店を持つよ。お母さんとカイルも支えるから。だからお父さんは安心してゆっくり休んで」

父から言われたのではない。ミリア自身が決めたことだった。


家族のために頑張ることはミリアの夢への大きな原動力となっていた。


(…家族のいないアレクは何を原動力にしてるのかな)

人間は弱い生きものだ。何かをするためにはエネルギーの源が必要だ。

今回の冒険、何から何までアレクの計画通りだったのではないかという気がする。何度か躓いたとき、アレクの処置はすべて的確だった。アレクの能力が高いことは確かだが、どれだけシミュレーションを重ねればあそこまでの準備が出来るのだろう。そしてその行動の動機はどこから生まれているのだろうか。


(彼が前向きな感情で動けているのならそれでいい。でももし怒りや憎しみといった負の感情を原動力にして動いているのであれば…)

一年前、助けられて仲良くなってから、色々な相談に乗ってもらい、今回冒険者という夢への道筋まで示してくれた友人に、ミリアは特別な感情を持っていないと言えば嘘になるだろう。


(私じゃ、支えになれないのかなぁ)

今はまだ自分の感情を掴みきれていない。だが今後の冒険の中で少しでも役に立つことで彼に恩も返していきたいという想いは間違いなくある。


生来明るい性格のミリアだったがしんみりとそんなことを考えてしまう、そんな家族愛に包まれた夜だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る