第25話 初めての冒険、それぞれの感想〜ロイ〜

「流石に疲れたな…」

そう言ってロイは自宅のソファに腰掛けた。数学教師としてかれこれ3年働いているが、こんなに疲れているのはいつ以来だろうか。


元々文化系で運動が得意でないロイにとって、今回の冒険はかなりハードなものとなった。

実際途中何度か倒れそうになったが、アレクが持参していた大量のスタミナポーションでドーピングして2日間の行軍を乗り越えたのだった。


「アレクに上手く乗せられたわけだけど、冒険者はそんなに簡単じゃないな…」

並の冒険者から見ると1回目の成果としては驚くほどなのだがロイはそれに気づいていない。完璧主義者だということもあるだろう。実際ロイの部屋は簡素な本棚と机、ソファくらいしか物がなく、それらがキチッと整理されて置かれている。


「まあ、今の教育システムを変えるにはこれくらいぶっ飛んだ行動をしていかないとダメなんだろうけど」

いや、教育を変えるために冒険者って改めて考えると意味不明だなとロイは自嘲気味に笑った。


ロイの夢は独自の私学校を設立して成果を出し、その仕組みを国中に広めることだ。現在の教育は貴族と一部の秀才のためにある。ロイは裕福な家庭ではなかったが、数学の才能があり、将来を期待されて奨学金を得ることが出来た。

奨学金がなければ学校に通うことも出来ず、飲食店や商店で下働きをしながら教会で週末に行われる私塾のようなものに通い、成人と同時に定職に就くというのがこの国の一般的な生活だ。もしくは農家や冒険者として働くか。


貧しい人間に逆転の機会はなく、富める者はより良い教育を受けて知識を得て更に富む。ロイはこの構造を改善するには教育システムを再構築する必要があると考えた。そしてそのためには金と名声が必要不可欠。そういう意味ではアレクの誘いは渡りに船だった。


「それにしてもまさかあのメンバーで冒険することになるとは…一年前には夢にも思わなかったな」

そう言ってロイは笑った。一年前に今の仲間たちがすべて計算づくで集められたとは露とも思っていない。

数学の天才だが真面目な彼にそこまでの打算は働かなかった。


「さて、明日の準備をして寝よう」

明日からまた教え子と向き合う日々だ。夢のような2日から日常へ。これが当たり前になる日が来るのだろうかと、とりとめなく考えながらロイは眠りについた。

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