第21話 アレクの力
「なっ!もう魔力も残ってないよ!?」
「私も、もう魔法は使えない」
全員が披露困憊な状態で現れた新たな敵に絶望していた。
ここまでアドバイザーに徹したアレクだったが、
「こいつらは俺1人で片付けよう。ここまで何もしていないしな。みんなは休んでいていいぞ」
そう言って前に進み出た。
「!?いや、流石に1人じゃ無理だ!俺も出るぞ!」
コボルトは3階層から出現する魔物だが、素早い動きで接近して鋭利な爪や牙での引き裂きや
噛みつきなどの攻撃を得意とする。体長も170cmほどと成人男性くらいあり、力は並の人間ではとても
かなわない位強い。つまり素早さと力を兼ね備えた魔物と言えた。
ギルの静止も当然で、そんな魔物三体を同時に相手しようなんて正気とは思えない。
熟練の冒険者ならともかくアレクも数回ダンジョンに潜っただけの初心者だ。
全員で戦わないと勝ち目はない。そう思ったのだが、
「そんなフラフラの体じゃかえって危ないから。まあ見てろ」
ギルの支援を断りアレクはさらに前に進む。既にコボルトの間合いまであと1mの距離まできている。コボルトは獰猛に笑うと、両手の鋭利な爪を構え、飛びかかってきた。
あっ!と仲間たちが思った瞬間、その戦闘は終わった。
アレクは飛びかかってきたコボルトを眺めニヤリと笑うと
「縮地」
と心の中でつぶやいた。予めセットしていた魔術が発動し、アレクの体が高速戦闘可能な状態にまで強化される。
音もなく滑るように右へ動いて振り下ろされた長い爪をかわし、居合の要領で振り抜いた刀はコボルトの胴体を真横に両断した。
崩れ落ちる仲間に目を奪われた一瞬の隙に、するりと距離を詰められた2匹目は首を飛ばされた。
そして最後の3匹目は逃走しようとしたところを後ろから斬り裂かれ絶命した。
あまりにも一瞬の出来事にアレク以外の4人は開いた口が塞がらなかった。アレク自身は落ち着いた様子でドロップアイテムを拾い、自分の鞄型アイテムボックスへと入れている。
「よし、じゃあそろそろ帰るか」
「帰るか、じゃないわよ!何よ今の動きは!どう見ても初心者の動きじゃないじゃないの!」
「そんなこと言ってもまだ剣術道場に通い始めて1年弱だからな。まあ師匠からは筋が良いって褒められたけどな」
アレクが通う道場はサイトウという50代の男が開いている、実戦で使える剣術を教える道場だった。
東洋から来たサイトウは『刀』と呼ばれる斬れ味に特化した剣での戦闘方法をアレクに叩き込んだのだが、人を滅多に褒めない彼の目から見てもアレクの才能は並外れていた。口には出さないが自分の道場を継いでほしいと内心では思うほどに。
今は自分の強さに遠く及ばないが数年後には抜かれるだろうとも感じていた。
「いや、とんでもねぇ動きだったんじゃないのか?俺にはよくわからんが…
それにその剣、鞘がやけに細いと思っていたが刃が片方にしかついてない、変わった刀だな」
「こいつは刀っていう武器でな。東洋から伝わったんだが、俺が通っていた道場ではこの刀での戦闘術を教えているんだ。そこの師匠から貰ったんだ」
「東洋の武器か…今度見せて貰っていいか?どう作るのか興味がある!」
「いいぞ、帰ったら見せるよ」
ギルはアレクの持つ刀の切れ味の良さに驚いていた。斬られたコボルトの切断面がかなりきれいだった。
アレクの腕は見事だが、刀の力も大きそうだ。疲労困憊でも装備のことになると熱心なのは本当に好きな証拠だろう。
「僕、アレクは頭脳派だと思ってましたけど、戦っても強いんですね」
「買い被りすぎだ。俺なんてベテランの冒険者と比べたらまだまださ」
「いや、今の動き訓練校の教官と遜色なかったわよ!?どんな特訓したらそうなるってのよ!」
「仕事の合間に行ってたんだから普通だって。まあ、何回かダンジョンに潜ってだいぶ強くなった
気はするけど」
アレクはあえて言わなかったのだが、サイトウはアレクに『気』と呼ばれる東洋の概念を教えていた。
『気』はマナと同義だが、サイトウが教える鍛錬と術はウィンベルクの冒険者たちに使われる魔術の
類とは少し異なる部分があった。その一つがマナを体の一部に集め、身体強化することで使える無音移動術『縮地』で、これがアレクの高速戦闘を可能にしていた。
仲間たちにもどこかのタイミングでサイトウの道場に来てもらおうかなとアレクは考えている。
「アレク、怪我はない?」
「見ての通り傷一つ負ってないよ」
「見えないくらい速かったから聞いてる。でもないならそれでいい」
ルミエラも無表情ながら心配していたのだが何事もなく終わってホッとしたようだった。
「さて、じゃあ帰ろうか」
「ちょっと、あたしはまだ納得してないからね!」
アレクは転送石に向かって呪文を唱え、一行はダンジョンを脱出したのだった。
〜RESULT〜
最高到達階層…第3階層
ドロップアイテム総額…7万ルピー
クエスト報酬…1万ルピー
支出(使用したアイテム、食料など)…15万ルピー
利益…マイナス7万ルピー
パーティ総資金…993万ルピー
目標金額まで…4億9007万ルピー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます