第19話 バッドラック、バッドジーニアス

一行は洞窟の中を歩き続ける。洞窟の中は蛍光石と呼ばれる光る石が壁の至るところにあり、明かりには困らなかった。

分かれ道が来るたびに地図で確認しながら最短ルートを進んでいく。


「意外と魔物が出ないな…ダンジョンてこんなもんなのか?」

ギルの言う通り、最初にゴブリンと戦ってからまだ魔物に遭遇していない。既に入ってから3時間ほど歩き続けているというのに。


「このダンジョンなら1時間に一回くらいは魔物に遭遇するはずなんだが…すぐ前に別の冒険者が狩り尽くしたのかもしれないな」

「さっきの戦闘は何もしてないから、実戦を経験しておきたいけどね」

「戦わないに、越したことはない」

「ルミエラの回復魔法も限られているからな…5階層までの道のりを考えたらこれくらいの

ペースでちょうどいいのかもしれないな」


さらに歩いていくと、下の階層へ続く階段を見つけた。

「おっ、階段じゃねぇか。アレクの持っている地図通りだな!」

「5万ルピーも払ったからな。1階層くらい合っていないと困る」

「アレク運悪いもんねー。しょっちゅう急な雨でビショビショになってるし、あたしとの出会いもそうだったけど面倒ごとに巻き込まれがちだし」

「それでもこの歳まで生きてるんだから悪運は強いんだろ、きっと」

「ハイスペックで、生き延びているだけ」

そんなことを話ながら階段を下る。しばらくすると第2階層に降り着いた。



第2階層も特に第1階層と変わりはない。強いて変化があったとすれば、10mほど前方に体長1mほどの巨大な芋虫がいたことだろうか。

まだこちらには気づいていないようだった。

緑色の体をうねらせ、口から黄色の粘液が垂れているその姿に、全員が臨戦態勢に入る。


「いきなりかよ…」

「一匹だから僕の魔法は温存したい。ミリア、狙える?」

「オッケー!まっかせなさい!」

ミリアが弓を引き絞る。狙いを定めて放った矢は体の側面、中心あたりに突き刺さった。


「ピゲェェェェ!」

芋虫が鳴き声を上げ、こちらを振り向く。そして以外にも素早い動きで迫ってきた。


「もういっちょ!」

距離が半分になったあたりでミリアの2本目の矢が突き刺さる。

今度は芋虫の眉間に突き刺さり、芋虫は動かなくなった。


「うおっ、ミリアすげえな!さっきも思ったけど命中率高くないか?」

「料理人目指してるからね!力仕事もあるし割と器用なのよ!」

「普段はがさつなミリアが。意外だな」

「ちょっとロイ、がさつってどういう意味よ!…まあ、訓練校で結構練習したから」

仲間に褒められてミリアも満更でもなさそうだ。


アレクは仲間を冒険者に誘った夜、ミリアには弓とダガーによる接近戦術を極めて欲しいと話していた。

遠距離攻撃がロイの魔法だけだと不便だろうと思ったからだったが、

(想定以上の腕前だったな。これなら…)

しばらく使えないと思っていた色々な作戦が使えるな、とアレクは胸中で笑った。



しばらくすると芋虫の体が消えて、後には魔石だけが残った。

アレクはそれを広い自身のハンドポシェット型のアイテムBOXに入れていく。


「なあ、その魔石っての一体何に使えるんだ?」

「ギル、おまえ予備校の講義寝ていたな…魔石はマナが凝縮された石で、

魔道具にセットしたり、砕いて武器の素材に練り込んだり色んな使いみちがあるんだよ」

「いや、そんくらいは俺も鍛冶屋だからわかってっけど、まだそんな高度な武器や魔道具は必要ないんじゃないか?」

「使いみちがそれだけあるってことは需要があるってことさ。だから魔石は高値で買い取ってもらえるんだよ。まあ、この階層レベルだとせいぜい2000ルピーほどだろうがな」

「うへー、命がけの報酬にしてはちょっと少なくねぇか?」

「さっきの戦闘なんて10秒くらいで終わっただろ?時給換算で72万ルピー。割はいいと思うがな」

「それまでどれだけ歩いて来たと思ってるのよ…まあ、それを含めても割がいいのは認めるけど」


魔石と一緒に魔物の体の一部がドロップアイテムとして残ることもあるのだが、今回は無かったようだ。


一行は再びダンジョンの奥へと歩みを進め始めた。

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