第18話 役割と責任

しばらく洞窟を歩くと曲がり角の先が広間になっており、そこに数匹のゴブリンがいた。


「数は…5匹ってところね。この数だと私とギルの二人で突っ込むのは厳しいわね」

「なあアレクはホントに今日は戦わないのか?」

「命の危険がない限りはな。ヤバそうなら戦うけどそうでないならみんなの訓練に

なるから見てるよ」

「スパルタ、鬼」

「なんとでも言うがいいさ。それで、どうするんだ?」

「僕が魔法を撃って、撃ち漏らしたのをミリアが狙撃、その後ギルとミリアが剣とダガーで各個撃破。

これで行こう」


ロイが提案した戦術はアイクが考えていたものと同じだった。

(パーティに頭脳が2つあれば分断されたときや片方がパニックになったときでも

対処出来る可能性が高くなる。ロイを誘ったのは正解だったな)


全員作戦に依存はなく、ロイが呪文の準備に入った。

曲がり角の先にいるゴブリンたちはまだ気づいていない。

毒からこんなに早く回復して追いかけてくると思っていないのだろうか。

ロイは一人曲がり角から飛び出し、杖をゴブリンたちに向けた。


「風の刃よ、ここに顕現せよ!『ウインド・カッター』」

ロイの杖先に複雑な紋様が浮かび上がり、そこから大きな風の刃が射出される。魔術は「属性」と「形質」の2つで形成される。今回は風の属性で刃の形をイメージして脳内で魔術の変換式を組み上げた。

杖はそれをどこに向けて打つのか、方向を指定するための補助具の働きをする。

ちなみに呪文も変換式の一部だが、これは術者によって異なる。イメージしやすいものになるのだった。


風の刃は集まっていたゴブリンたちに襲いかかり、2体の胴を斬り飛ばした。

残りの三匹は避けていたが、うち一匹の胸にミリアが放った矢が当たり、苦しそうに悶ている。

「よし、突撃だ!」

ロイの掛け声に呼応するようにギルとミリアがゴブリンたちに向かって猛然と

走り出した。


浮足立った残りの二匹は抗うこともできずギルとミリアに討たれてしまう。

初めてのダンジョン挑戦とは思えない完全勝利だった。

「俺たち行けるな!」

「ふふーん、アレク見たかしら!?あなたは苦戦すると思ってたかもしれないけど、私達だってやれば出来るんだから!」

「いや、実際驚いたよ…すごいなみんな」

「わたしだけ、何もしてない…」

「ルミエラがいるから心置きなく突っ込めたのよ!そうじゃなかったらあんな危険な作戦乗らないわよ!」

「これでも一番勝率高い作戦を選んだつもりだけど…まあ僕の予想以上にうまくいって驚いたよ」


全員が初めての勝利に酔いしれている。実際アレクの想像以上の成果だった。

ロイの作戦が良かったのもあるが、全員自分のやるべきことを理解している。

(最初の戦闘こそ毒を食らうアンラッキーな展開だったが、ポテンシャルは全員高いし、理解力があるな。そして何より…)


大雑把に思えるギルでさえしっかりと自分のタンクとしての役割を果たしている。

やはり本業で全員しっかりと下積みをしているからだろうか。

(自分の仕事に対しての責任感、プロ意識というのはこのメンバーの最大の強みかも)

思わぬ能力が副業に生きるものだなとアレクはまた一つ新しい気付きを得るのだった。

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