第17話 初めての戦闘 vsゴブリン
「ゴブリンだからって油断するなよ。2匹とも武器持ってるぞ」
全魔物中最弱と言われるゴブリンだが、それは無手で1対1の場合の話だ。小柄だが知恵が回り武器を使えるため侮って戦いを挑んだ初心者が返り討ちに遭うのは冒険者あるあるとして有名だった。
統計では10%の冒険者がゴブリンに殺されているとも言われる。
今回現れた2匹のうち、1匹は短剣を、もう1匹は棍棒のようなものを手にしていた。
「ギギ、ギギギーッ!」
鳴き声と共に棍棒を持ったゴブリンが襲いかかってきた。
「うおっ!危ねぇ!」
ギルはとっさに盾を構え、殴りかかってきた棍棒強くを弾き返した。大きめのラウンドシールドだが、実戦は初めてだったため、上手く攻撃を弾くことが出来て少し気が緩んだ。
攻撃を弾かれたゴブリンはのけぞり、尻餅を着いた。その瞬間頭を矢が貫き、絶命した。
「よし!」
ミリアが喜び次のゴブリンは、と視線を向けた先に、膝をつくギルの姿が目に入った。
「なっ!ギル大丈夫⁉︎」
ミリアが慌てて駆け寄る。左足のすねの辺りから血が出ており、短剣が近くに落ちていた。皮のブーツと膝当ての隙間に偶然短剣が掠めたようだ。短剣を持ったゴブリンは一瞬の隙に姿を消していた。どうやら洞窟の奥へ逃走したらしい。
「大丈夫だ… グッ!うぅ…」
ギルは脂汗を浮かべて、膝をついている。今にも倒れそうだった。
「勝てないと判断して即効性の毒を塗った短剣を投げつけてきたんだな。ギル、これを飲め。毒消しだ」
アレクがそう言って丸薬をギルに手渡す。震える手で口に入れたギルだったが、そのまま座り込んだ。
朝の集合時間を遅くしてでも道具の準備に時間をかけた甲斐があったとアレクは少しホッとした。熟練の冒険者たちから聞いて回った情報が役に立った。
「薬が効いてくるまで10分はかかる。それまではここから動けないな」
奥を索敵してくるから待っていてくれ、とだけ言い残し、アレクは1人奥へ進んだ。ルミエラは自分が覚えた回復魔法を使おうか迷ったが、まだ日に3回しか使えないため、薬が効くまでは待った方がいいと判断した。
10分ほどしてアレクが戻ってきた。
「少し先にゴブリンが数匹いた。恐らく先程逃げたやつが情報を伝えている筈だ。ギルの体調次第では進もうと思うが、どうだ?」
「もう大丈夫だ…毒は恐らく消えたんだと思う。脂汗が止まったからな」
「だが体力は相当消耗しているな…ルミエラ、回復魔法を使ってあげてくれ」
「わかった」
日に3回しか使えない回復魔法だったが、出し惜しみをして死ぬわけにはいかない。
「ホーリーライト」
ルミエラが掲げた杖から暖かな光がギルに降り注ぐ。
ギルの顔色が良くなっていった。
「こりゃすげぇな…!力が湧いてくる」
体を軽く動かしてみたギルはその効果に驚いた。
「サンキューな、ルミエラ」
「回数は限られてるから、気をつけて」
ホッとしたようにルミエラは言った。実戦で使うのは初めてで効果を心配していた。
「いいか、この程度の試練に心折れているようじゃ、俺たちの夢なんて霞みたいに掴めないままだ」
アレクは全員の目を見つめながら自身にも言い聞かせるように語りかけた。
「もう一度気を引き締めよう。このダンジョンは俺たちの夢に繋がってるんだ。途中で死ぬわけにはいかない」
再び元の隊列に直り、一行は洞窟を進み始めた。
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