第15話 荒野の洞窟

『荒野の洞窟』はアレクたちの住む街ウィンベルクから東に30分ほど歩いた地にある。


荒野というだけあってこの地より東は見渡す限りの荒野になっているのだが、その荒野に洞窟の入り口のような石作りの建造物があり、中に入ると下へ降りるための階段になっている。

この階段を降りた先が荒野の洞窟の第1階層になる。


「今回は第1階層までしか潜るつもりはない。第1階層にゴブリンも出るし、ダンジョン内はマナが濃いからマナ酔いもしやすい。最初だから慣らしだな」


街を出てダンジョンに向かいながらアレクは今回の冒険の目的を説明していた。


「と、普通の冒険者ならそう言うだろうが、俺は違うぞ」


え、と仲間が一斉に驚く。冒険者予備校でも最初は徐々に慣らしていくべしと教わっていたからだ。


「5階層までは最低でも行くぞ」

「「5階層!?」」


全員の声が辺りにこだました。それ程驚くべき内容だった。


「アレク、君は正気か!?5階層って言ったら中ボスがいるフロアじゃないか!それに1階層あたり平均1日は踏破にかかるんだぞ?僕たちは週末の休みの2日しかダンジョンに潜れないんだ。明日の夜にはもう家に帰ってないといけないんだ!」


ロイが珍しく取り乱しているが、言っていることは概ね正しかった。


「ロイ、おまえらしくないな。何点か修正しようか。

まず、荒野の洞窟の20階層まではランダムダンジョンではなく固定型のダンジョン。つまり地図が存在するんだ。今回俺は知り合いのつてでその地図を手に入れている。中ボスはたしかに5階層にいるが今回は5階層に着いてすぐ帰るから戦わない。

そして今回帰還にはこいつを使う…」


そう言ってアレクは自身の懐から緑色に光る石を取り出した。


「て、転送石じゃないか!こんな高価なものを使ったら…」

「まあ、今回の探索は大赤字だろうな」


転送石は身につけて特定の呪文を唱えるとダンジョンの外へとワープさせてくれる石でCランク以上の冒険者には重宝されている。


だが値段が10万ルピーと高額で、初心者は普通手が出ない。それに階層が浅ければ歩いて帰ればいいのだ。もしくは10階層毎に存在する転送用魔法陣を使えばダンジョンから脱出出来る。


「いいか、俺たちに一番ないのは時間だ。その時間を稼ぐためにはお金を使うしかない。幸い俺たちには本業の収入がある。それを注ぎ込むぞ」


時間を買うという話は酒場で最初に聞かされていたが、まさか初回の冒険から転送石を使うとは、ロイは夢にも思わなかった。


実際、転送石はパーティがピンチの時に緊急脱出するために使われることがほとんどだ。それを時間短縮のためだけに使う初心者の冒険者は前代未聞と言えた。


「そして、家に戻るタイムリミットだが明日の夜というのは正確じゃないよな?」


え、とこの言葉を聞いて4人の背中に冷や汗が流れる。


「明後日の朝、仕事前に戻れればいいだろう?」


夢のためとはいえ、アレクに付いて来たたことを後悔し始めた4人だった。

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