第13話 ミリアとアレク

今から2年程前、ミリアの働くレストランへ店中に聞こえるような大声で料理のクレームを毎日言いに来る大男がいた。


「おいおいここの店は客に虫の入った料理を出すのか〜?」

脂ぎった太った体の大男で、不快感しか感じなかったがそれでも客は客。

100%入る可能性がないとは言いきれなかったので最初は穏やかに対応していたミリアだったが、毎日のように店に来ては髪の毛が入っているだの、味付けが濃すぎるだのといちゃもんを言い続けて、挙句の果てに接客が気に食わないとミリアの同僚の女の子にコップの水をぶっかけたところでミリアの堪忍袋の尾が切れた。


「あんたいい加減にしなさいよ!どこの回し者かわからないけど嫌がらせにも程があるわ!文句があるならなんで毎日来るのよ!」

男は待っていたとばかりにニヤリと笑い、立ち上がった。


「おいおい!この店は客に来るななんて言うのか〜?お客様は神様って言葉を知らないのか〜?」

「あんたなんて神様でも何でもない!うちの従業員に手を出したのはそっちじゃない!」

「配膳の時にスープを溢してきたからそのお返しだよ、そうだよなぁ?」

「ち、違います。置く時にお尻を触ろうとしてきたからビックリして…」

「とにかく!金を払ってる客に対して出ていけなんていう店なんだなここは!オーナーを出せオーナーを!」


ミリアはぐっ、と歯噛みした。恐らく近隣のレストランからの嫌がらせなんだろうが、まんまと乗せられてしまった。他の客も事情はわかっているだろうがわざわざこんな客が来る店に来ようと思わないだろう。

まんまとやられてしまったと思っていたその時、客の1人が立ち上がり、

「おっさん、流石に毎日来るのは気持ち悪いしあからさま過ぎるから辞めた方がいいんじゃねぇの?」

とぶちかました。


ミリアは驚き振り返った。真っ赤な短髪に青い瞳。落ち着いた態度には微塵も虚勢が見られず、不敵な笑みを浮かべている。自然体で大男の前に歩み出るその姿は見ているものを安心させる何かがあった。

その客こそがアレクだった。

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