第11話 初めてのクエストは…
アレクが待ち合わせ場所であるギルドホール入り口についたのは約束の時間から1時間ほど前だった。
入口正面にカウンター、向かって右側にコルクボードが置いてあり、そこには今日受注可能なクエストが張り出されていた。
冒険者の朝は早い。今朝は初の冒険ということもあり長く潜るつもりもなかったのでゆっくり目の待ち合わせ時間にしたおかげで人はまばらだった。
アレクはコルクボードの前に立ち、今日行くつもりのクエストがあるか確認を始めた。
5分程探していたが、
「お、あったあった」
ようやくお目当のクエストを見つけ、用紙を取ってカウンターに向かう。
「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか」
茶色の髪をポニーテールに結えた、落ち着いた受付嬢だった。この人目当てでこの列に並んだ人もいるだろうと思わせる程整った容姿に落ち着いた優しげな微笑を浮かべている。
胸の名札にはサラと書かれている。
「すまない、この紙に記載されているクエストを受けたいんだが、初めてでよくわからないんだ。良かったらシステムを教えてもらえると助かるんだが」
「初めての冒険ですね。冒険者免許は既にお持ちですか?」
「ああ、先週予備校で取って来たよ」
あら、とサラは少し驚く。予備校の存在を知っていて通うのは10人に1人もいないくらい珍しい。
必要だから国が金を出して存続しているが、いつも閑古鳥が鳴いている場所だ。
そのためか、たまに来る見習い冒険者に対してついつい教官が気合いの入りすぎた熱血指導をしてしまうと聞いている。
「そうでしたか。ではクエストに関しての説明をさせて頂きますね。まず冒険者に成り立てのアレクさんの冒険者ランクはFランクです。ランクはA〜Fがありますが、クエストの達成状況やダンジョンの探索度、あとはモンスター討伐の実績などによってランクポイントが獲得でき、一定のポイントが貯まるとランクアップとなります」
「ん?予備校ではSランクまであるって聞いたけど?」
「Sランクは全冒険者の0.0001%、100万人に1人という極少数存在しますが、国の認可によって到達可能なランクとなっているのでギルドのシステム外の話になりますね。称号のようなものだと思ってください」
実際のランクはAが最上級ということか。
「なるほど。話の腰を折ってしまってすまなかった」
「では続けますね。クエストにもA〜Fのランクがあり、それぞれ冒険者ランクと対応する難易度になります。特例を除き、基本的には自身の冒険者ランク+-1のランクまでしか受注できません。例えばDランクの方はC、D、Eランクのクエストが受けられます。クエストは達成時に報酬とランクポイントが貰えますが、高難度のクエストの方が貰える報酬やポイントは高いですね」
「なるほど。大体理解出来たよ、助かった。それで今回うちのパーティで受けたいのはこのクエストになるんだが…」
そう言ってアレクは手に持っていたクエスト用紙をサラに手渡した。サラはクエスト用紙に目を通すと、
「⁉︎いきなりですか?…初心者の方にはあまりおすすめ出来ないですが…」
「ああ、分かってるんだが、今回はこれで行くと決めている。承認手続きをお願いしたい」
「…何か考えがあるようですが、命あっての物種ということは忘れないで下さい。死にさえしなければまた冒険は出来るのですから」
サラの対応はギルド職員のものとしては少し行き過ぎている。本来冒険者をここまで説得しようとすることはない。それだけにサラの人柄の良さ、優しさが滲み出ていた。
「ありがとう、肝に銘じるよ。あんたいい人だな」
アレクはそう言って笑った。
サラはその陰のある笑みに内心ドキッとさせられたが、それがどういう感情から来るものなのかは分からなかった。
その後簡単な説明と手続きを終えてアレクは待合スペースへと歩いて行った。その後姿を見送りながら、思わずサラは呟いていた。
「あの人…普通の人と何かが違うような…?」
勘違いに違いないとブンブン頭を振ってから次の冒険者への対応へと気持ちを切り替えた。
誰も気づいていないアレクの秘めた才能に本当の意味で一番最初に気付いたのは、もしかするとサラだったのかもしれない。
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