第10話 ミリアの夢
シャワーを終えミリアは身支度を進める。
アレクから冒険者になろうと言われた日から今日で
約1ヶ月。
最初の二週間は冒険者予備校に通い、冒険者免許を取得するための講座と試験を受けた。
冒険者免許は冒険者ギルドで教官と戦ってある程度の実力があることを示すか、予備校を卒業するかのどちらかで取得することが出来る。
冒険者になろうとする人間は大抵学校に通うことを面倒臭がり、教官との一騎討ちを選ぶのだが、実は予備校でしっかりと冒険に関する知識を学んでおいた方が生存率が高いということをアレクは聞いた。
全員無事合格し晴れて冒険者の仲間入りを果たしたのだが、問題はその後の二週間だった。
冒険者予備校卒業後にもう一度パーティミーティングを行なったのだが、その際アレクは、
『それぞれが自分の職業の訓練校に二週間通うこと』を提案した。
アレクの調査によるとそれだけで最初半年間の死亡率がさらに半減するという話だったので。誰も反対しなかった。
予備校も訓練校も国営の教育機関で受講料を無利子無担保の奨学金を借りられるため初期負担がゼロというのもありがたかった。
このあたりの情報もすべてアレクが仕入れてきた情報だった。
「あの男はほんと底が知れないというか、抜け目ないわよね…」
友人としては頼もしいが、敵に回すと恐ろしいのがアレクという男だ。
深謀深慮、どこまで考えているのか、思考の底が読めない。職業がら色んな人を見てきたが、アレクほど底知れない男は今のところ他に知らない。
ただ、この訓練校が想像以上に厳しかった。
そもそも冒険者という人材資源が最初の半年間で3分の1死んでしまうという状況を打開するべく国が初心者育成機関として設立したのが職業訓練校だ。
死なないように厳しく鍛え上げるのはもちろんのこと、舐めた気持ちで冒険者になろうと考えている人間を振るい落とすという側面も持っているため、精神的にもとことん追い込む。
ミリアも辛い思いをしたが、夜家に帰るとステカで仲間達と進捗を報告し合い、励まし合いながら乗り越えた。
そして教官の厳しいしごきや罵声も耐え抜き、全員が訓練校も卒業することができた。
その数日後の今日、ついに冒険当日の朝を迎えたのだった。
この一か月辛いことも多かったが、これから始まる冒険を想って耐え抜いた。
目標はお金、そのことに揺るぎはないが、ワクワクする気持ちもある。
冒険者は楽な仕事ではないし、自分に縁がないと思っていたがあの仲間たちと一緒なら何とかなるような気がする。
「夢を叶えるために、やってやろうじゃない!」
ミリアの夢は自分のレストランを持つことだ。これまではホールの仕事がメインだったが、近々コックとしての修行をつけてやる、とシェフからは言われている。
今ウィンベルクはレストラン激戦区となっており、どれだけ美味しくても潰れてしまう店が多かった。
ミリアも自分の腕に自信がないわけではなかったが、少しでもお金を貯めて初期投資を大きく行わないと生き残れないだろうと考えていた。そのための1億ルピー、そのための冒険だ。
予備校でもらった初心者防具セットに身を包み、背中に矢筒と弓、腰の革ベルトに短剣を装備し、逸る気持ちを抑えきれずにミリアは家を飛び出した。
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