第5話 アレクの過去
彼は庶民にしては比較的裕福な家庭に生まれた。パン屋を営む優しい父と母、そして妹。幸せな暮らしが6歳まで続いた。悲劇はそのあと、彼が7歳のときに起きた。
父親が原因不明の病にかかり寝たきりになってしまったのだ。母親は看病につきっきりとなり、当然店は閉店。
しかも父親の友人が多額の借金をし、父が連帯保証人となっていたのだが、その友人が同じタイミングで蒸発してしまった。当然残されたのは借金だけ。毎日のように取り立て屋がやってきた。
アレクは家族を養うため必死で働いた。朝は新聞配達、昼間は商会で丁稚奉公、夜は宿屋で小間使いをして、それぞれ賃金は安いながらも大量の時間を費やすことでなんとか食いつなごうとした。
しかし、利息が膨れ上がるばかり。看病を続ける中で母親も父親と同じ病にかかり、高熱で寝込んでしまった。間もなく二人とも亡くなった。
最終的にはアレクは借金の形として売りに出されてしまった。まだ幼かった妹にだけは手を出さないという条件で。
奴隷になったアレクだったがその後いろいろあって現在は自由の身となり大商人サルマンが経営する商会で下働きをしている。
アレクはこの世界を憎んでいる。正確にはこの世界のルールを作った金持ちたちを。
なぜ父親は医者に診てもらえなかった?
高額な医療費を払い続けられなかったからだ。
なぜ借金はあんなにも膨らんでいた?
利息に制限がなかったからだ。お人よしの父を騙す悪人が大勢いたからだ。
なぜ奴隷なんてシステムが存在する?
一部の金持ちが安価に労働力を得るためだ。
アレクはこの世界を改革したい。そしてそのためには世界への影響力を手に入れる必要がある。
それが、金だ。金があれば政治にまで口が出せる。
議会政治制がとられているこの国では、一見国を支配する12人の政治家になることが国を動かす近道に見えるが、奴隷としてとある政治家のもとにいたアレクには分かる。
この国の政治は腐敗しており、彼らを操っているのは数名の大商人だということが。大商人となってこの国を、世界を変革する。それがアレクの夢であり、目標だった。
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