入学、そして推理好きの美少女③
「あった!」
咲馬たちは同時に声を上げた。1組の名簿欄に貴堂咲馬と舞山十秋の名前は載っていた。するとすぐに他の新入生たちに割り込まれ、遠ざかってしまったが、見間違うはずもない。偶然にも同じクラスになれたのだ。
「まずは1年間、仲良くしようね!」
「こっちこそよろしく」
クラス発表が終わり、新入生たちはそれぞれの教室に分かれ、各担任から今後の学校生活について話をされる。
咲馬たちの担任は波瀬といい、スキンヘッドでいかつい顔の中年教師だが、雑談を交えた自己紹介はクラスの笑いをとった。
そして──。
1つ懸念すべきことがあった。それは、校門の前ですれ違い咲馬に敵意を向けてきた男子も同じクラスだったことだ。名前は黒神玲央。彼は1番前の席なので、どんな表情をしているかはわからない。
波瀬のホームルームが終わり、保護者向けの書類が手渡された後、昼食タイムになった。初日の空気は張り詰めていたが、咲馬にはすでに向かえる場所があるのがありがたかった。
窓際の席で、十秋が弁当箱を開いているところだった。色とりどりのバランスの良い食事だ。
「担任、意外と当たり?」
「宿題忘れても怒らなかったらな」
「それはやらないほうが悪いでしょ」
「ですよね……さすがは優等生」
「なんか癪にさわる言い方」
十秋は中学で成績1番だといっていた。宿題を忘れることは決してないだろう。
「貴堂だっけか」
不意に背後で声がしたので振り向くと、硬そうな髪質で、目の細い男子生徒が立っていた。さっきの自己紹介で名前は覚えている。久松竜生。なぜ一発で名前を覚えられたかといえば──。
「いやあ、びっくりしたぜ。俺以外にもソルジャーはいるに違いねえって思ってたけど、まさかVISとはなあー。俺がクラスの注目の的になって、女子からキャアキャア言われる予定だったのに、お前に根こそぎもってかれちまうか。くー! くやしっ」
久松竜生、彼の能力はVIOLETだ。
「VISは人気になんてなれないよ。珍しいだけ。数日もすれば、そっちのほうが有名になる。なんかそんな雰囲気だし」
「そんな雰囲気?」
いかにも遊んでそうな雰囲気、とは言わないでおいた。
「竜生くんも一緒にご飯食べる?」
「おー、いいね、十秋ちゃんだっけ。気配り上手だね! 今まで絶対モテてたでしょ」
「まあ、ないことはないけどね……」
「へへ、俺の目はごまかせないぜー」
高らかに笑うと、竜生は弁当箱を取って戻ってきた。かなり社交的な十秋が引くぐらい、竜生も活力に溢れるタイプのようだ。
「それで、2人とも部活はもう決めてんの?」
唐揚げを口にし、2人の顔を見つめてきた。先に応えたのは十秋だった。
「あたしはソルジャー部のマネージャーに立候補する。ソルジャーに興味があるんだ」
「父親の影響?」咲馬は訊いてみた。
十秋は小さく頷き、「少し前まではIT業界が全盛期だったけど、これからはソルジャーの時代がくるっていうの。ソルジャーを管理する職業が整備されれば、きっと市場規模も大きくなるだろうって。だからあたしも、ソルジャーを管理する練習がしたいと思ったんだ」
「難しい話だなあ、てか将来のことそこまで考えてるのスゴすぎ」竜生は苦笑し、とても叶わないという意思表示なのか、かぶりを振った。「俺は兼部しようと思ってる。VIOLETの能力のおかげでこの学校に入った以上、ソルジャー部への入部は義務だけど、心は普通の高校生だからよ──そう、俺は恋愛研究会にも入る!!」
「恋愛研究会?」十秋が首を傾げる。
「恋愛相談を受けて、ソルジャーがキューピット役になる部活って聞いた。あの人は自分のことをどう思ってる? 両思いかもしれない? みたいな準位の低い感情をVIOLETなら視ることができる。たとえば、依頼人と片思いの相手をわざと近づけて、ソルジャーが2人の紫ノ糸を確認する。そんで2人から糸が出ていたら、即告白させるってわけ」
じつは政府も似たような政策を考えていると、この前ニュースでやっていた。
「少子高齢化を打破するのは、《VIOLET:Soldier》だ! って政治家がいってたな。確かにVIOLETには社会を変える力がある」
「咲馬も恋愛研究会に入らないか? VISなら紫ノ糸も視れるわけだし。ついでに十秋ちゃんも一緒に」
「あたしも?」
「十秋ちゃんなら部活の看板になれるぜっ!」
「褒められて悪い気はしないけど、あたしは遠慮しとくね。今はそういうの、興味ないし」
「そっか、残念。じゃあ放課後、俺と咲馬で顔出すってことで決まりだな」
「入るなんて一言もいってないぞ。それより、ソルジャー部のほうに──」
「2、30分そっち先に見て、それから行けばいいだろ。心配すんなって。将来万能ソルジャーとして世界を駆けまわる奴が、小せえこと気にすんなよ」
「万能か……過剰な力は時に人を苦しめる」
「うん?」
「人の想いが視えすぎるのは正直つらい。世の中には知らないほうが幸せなこともたくさんある。感情はその中の1つ。紫ノ糸を視ることは、その人のプライバシーに触れることを意味する。それに、赤ノ糸を猟奇的に斬ろうとする今の風潮も、僕は嫌いだ。父さんはREDで剣の扱いも一流だけど、どこか人の心が欠けてる。僕は簡単に人の糸を斬るような人間になりたくない。紫ノ糸だけじゃなくて、赤ノ糸も人間には必要だって伝えるのが、僕の使命だと思ってる」
でも、と十秋が反論する。
「赤ノ糸の多くは犯罪に繋がるってお父さんが言ってた。だから危険因子のない世の中を創ることには価値があるでしょ? 誰も理不尽に死なずに済んで、幸せを壊されることがなくて……ってごめんね、ちょっと熱くなっちゃった。お父さんがソルジャーの研究者だから、あたしも付け焼き刃の知識ばっかり持ってて……」
数秒間、場に沈黙が訪れる。
「あ、ああ……まあまあ、んじゃ、この話はさておき、とにかく一緒に行こうぜっ!」竜生が咲馬の肩を強く叩いてきた。「十秋ちゃんはソルジャー部の部室前で先に待っててくれ。恋愛研のほうが終わり次第合流するからさ」
「う、うん。わかった、待ってるね」
そして、気まずい空気をリセットするかのようにチャイムが鳴った。
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