乳をやれい

有間 洋

第1話

 私は、長女も長男も母乳で育てた。だから、断乳するまでは常におっぱいを出したりしまったり忙しかった。生まれてから4か月くらいは、母乳だけで、離乳食もない。母乳で育てると、1時間くらいおきにおっぱいをやらないといけない。だから、もういっそおっぱい出しっぱなしでもいいくらいだ。

 長女は実家に戻って出産したのだが、夜中に長女が泣くと、父が部屋にやってくる。そして長女を抱いてあやしながら、私に「乳をやれい」と言う。長女の場合、母乳を飲んで満腹になっても寝ないことが多くて、必ずしも、母乳がほしくて泣くだけではなかったのだが、この父の「乳をやれい」は長女が泣くたびに続く。長女は母乳を飲んで満足したら、乳首をおしゃぶりのように、舌でレロレロして遊んでいる。それでも、寝かせると泣く。すると父が来る。「乳をやれい」と言う。

 とにかく、父の「乳をやれい」がうっとおしかった。乳をやっても泣き止まない時があるのに、寝ている私を起こして「乳をやれい」と父は迫る。

 とにかく、長女は私を寝かせてくれなかった。

 昼間も同じである。おっぱいを出したりしまったり忙しい。夜、眠れなかった分、昼に寝ようとするのだが、昼は昼で、泣くから、やっぱり「乳をやれい」と父が言う。24時間営業のコンビニストアと同じだ。泣いたら「乳をやれい」なのである。

 夜、母乳をやって何とか寝かして、私も寝ようとしたら、ぶりぶりぶり~と音がする。うんちである。長女はよく、夜中にうんちをした。それで、起きてしまう。おむつを替えてそのまま横にするとまた泣く。母乳はさっきやったばかりである。このまま泣かせたまま寝てしまおうと思っていると、ガラッと戸口が開いて、父が娘を抱きかかえ「乳をやれい」という。もう、乳じゃないから、と思うけど、泣いているのが放っておけず、父の「乳をやれい」は何度も夜中に繰り返された。

 昼も夜も「乳をやれい」と父に言われて、私のおっぱいはほぼ出しっぱなし状態だったんじゃなかろうか。あの頃はもはや、私のおっぱいは胸ではなく娘の食糧だったと思う。私がおっぱいを出しても誰もなんとも思わなくなっていた。

 大変だったけど、今思い返すと懐かしい。

 「乳をやれい」は父だけに乳だったのかもしれない。


 読んでいただきありがとうございました。


 

 

 

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乳をやれい 有間 洋 @yorimasanoriko

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