第11話 ストーカー、ストーカーを卒業する 3
※ 前半ちょっとだけカットしてまーす。
続きからどうぞ!
それは夢にまで見た言葉。
ジュリアのその言葉に、拓ちゃんはもう我慢ができなかった。
「ジュリア、」
「う、んっ? はあっ、」
「結婚しよう」
「……、へっ、」
こうして拓ちゃんは、ジュリアのコンドームの使用主、の新たなひとりになった。
すっかり体力を使い果たして汗だくになった拓ちゃんは、絶え絶えにはあはあと荒い息を吐きながらジュリアに覆いかぶさって抱きしめた。
ジュリアは、一度拓ちゃんの頭を軽く抱いてから、あはっと笑った。
「プロポーズされたの初めて」
「あっ! いや、あの、」
拓ちゃんが己の吐いた言葉を思い出して慌てて身体を起こすと、ジュリアは慣れた仕草で自分の中から拓ちゃんのそれをコンドームごと引き抜いて、するりと離れた。
「拓ちゃんは意外と激しいんだね」
からかうように言われて、拓ちゃんはさっきまでの自分の行動をほんの少し反省した。
「ごめんなさい、床で……」
「ううん、いいよ、大丈夫」
ジュリアがはい、これどうぞ、とティッシュの箱を拓ちゃんに渡してくれてから、自分は放り投げられていた下着を拾って履いた。
拓ちゃんは受け取ったティッシュで自分の後始末をした。
コンドームの口を結びながら、セックスなんて何年ぶりだろう、とぼんやり考える。
全身を気持ちのいい疲労感が襲ってくる。
床で擦りつけた膝が今頃痛い。
ジュリアはすっかり元通りの姿に戻ってしまってから、ベッドにぼすんっと勢いよく倒れ込んだ。
「おいで、拓ちゃん」
まるでペットの犬にそうするかのように腕を広げて呼ばれ、従順な犬はパンツだけ穿いてからご主人さまのいるベッドにふらふらと寄って行く。
遠慮もなくベッドに上がってジュリアを抱きしめると、ジュリアはふふっと笑って拓ちゃんの胸にすり寄ってきた。
「また来てくれる?」
「きみが呼んでくれるなら」
「じゃあ、寂しくなったら呼ぶね」
「いやじゃなかった?」
「全然。次はどんなふうにしてくれるの?」
「……。ど、どんなふうに……?」
「あははっ!」
しばらくそうしてふたりで転がってから、ジュリアはおもむろに「よいしょ」と起き上がった。
「拓ちゃん、まだ時間ある? あたしコンビニ行ってくるから、お留守番しててくれない?」
言われて、拓ちゃんも慌てて身体を起こした。
「コンビニなら僕が」
「あ、いいのいいの、おやつ買ってくるだけだから。拓ちゃんはその代わり〜……」
ジュリアは喋りながらひとりでベッドを降りた。
テーブルに置いていた自分の赤い花柄のスマートフォンを手に取り、何事かを簡単に操作してから、テーブルの上に置きっぱなしだったカップに横向きに立てかけるようにして、そのスマートフォンを置いた。
拓ちゃんがその画面をよくよく見ると、そこには下がパンツ一枚穿いただけの、情けない姿の自分が写っている。
カメラが起動している。
録画モードだ。
「あの、……?」
「拓ちゃんほら、ずっとカメラのこと気にしてたでしょ? だからこれでおあいこよ、お利口にしててね」
「え、あの、」
「じゃあちょっと行ってくるね!」
「あのっ、じゅ、待って、ジュリア……!!」
それだけ言い残して、ジュリアはろくに返事もせずに財布だけを持って、さっさと玄関から出て行ってしまった。
いつも通りにまたしても鍵を掛けていない。
残された拓ちゃんは、混乱しながらもう一度ジュリアのスマートフォンを見た。
何度見ても自分が写っている。
録画されている。
拓ちゃんはベッドの上で固まってしまった。
どうしたらいいのか分からない。
自分の行動の全てが記録されてしまう。
たとえばこのままベッドにもう一度寝転べば、たとえばこのジュリアのスマートフォンを触ろうものなら、たとえば画面外に移動すれば、トイレを借りようものなら、部屋を漁ろうものなら、もしくは部屋を見渡したとしても、それら全てが見られてしまう。
画面外に出ればいいってわけでもない。
音が入るし、あとあとジュリアが帰宅してこの録画を確認して、そうなれば必ず聞かれるだろう。
なにしてたの。
答えられる自信がない。
拓ちゃんは、考えに考えた末、そのまま固まっていることに決めた。
不要な動きはするまい。
さっきまでの頭に血が上っていた熱が急速に冷めていく。
冷静に、そうだ落ち着け、恐らくジュリアはすぐに帰ってくる。
ほんの5分、10分のことだ。動かずにじっとしていよう。
拓ちゃんはベッドの上で正座をして、画面に写る自分から若干目を逸らしつつそのまま石になった。
……、撮られていることがこんなに気になるものだったとは。
いや待て、これは目の前で録画されているが、拓ちゃんはもともと隠し撮りだったのだから、これとはまた違うのではないか。
バレるまではジュリアは気づいていなかったわけで、いやでもバレてからもジュリアは平然としていた。
拓ちゃんと違ってジュリアは平気だったのか、それとも、いい加減嫌気がさしていて、拓ちゃんに自分の気持ちを思い知らせるためにこんなことを……?
ああ、目の前にジュリアのスマートフォンがあるのに。
あれだけはいつもジュリアが肌見放さず持ち歩いているから、あれだけは触ったことがない。
目の前に置かれたスマートフォン。
触りたい。
中身を覗きたい。
なにが入っているだろう。
写真類、メッセージのやり取り、通話履歴、ゲームなんかも入っているだろうか。
ジュリアの電話番号もメールアドレスも知ることができる。
とても気になる。
この手に取りたい。
だが、触るわけにいかない。
あの動画に、決定的な証拠を残すわけにはいかない。
拓ちゃんは目を血走らせて己の衝動に耐えた。
すぐだから、ジュリアはおやつだけ買って、すぐに帰ってくるから。
ところが、ジュリアが10分経っても戻ってこない。
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