第33話 関西へのレール

「ここが機関車乗り場か……………」


線路越しに見る。駅と呼べばいいだろうか。多くの人がきていて、少し混んでいるようだ。


「わたし、機関車乗ったことないし、見たのも今日が初めてなんだよね」


「同じね。そもそも普段から乗る機会が少ないもの」


「俺は博物館で見た程度だな。こうやって仮想現実の世界でも乗れるなんて感激だ」


 俺も乗った経験は無いし、そもそも機関車の存在すらほぼ覚えていなかった気がする。男の俺としては乗り物と聞くと大抵ワクワクしてしまうものだ。そのためか普段より笑顔が増量されているはず。実際、線路越しに見える関車は真っ黒でかっこいい。


「んじゃ、券買って乗るか」


 今時間は10:00。次に関西へ出るのが32分なので普通に乗れるだろう。4人で踏切を渡る。その時だ。


―――――ズテンッ


「痛てぇ~!!」


 慎士が線路にある溝に足を引っ掛けて盛大にコケた。顔を上げた慎士を見てみると、右目や頬など、顔中に黒い炭が付着していた。真っ黒だ。機関車で使う石炭がその辺にたくさん落ちている。それに触れてしまったのだろう。


「プフッ、慎士の顔がパンダみたいになってるよ!笑えてくるんだけど~!」


「下には気をつけて普段歩きなさいよ」


「お前………狙ってんのか?」


散々な言われようで少し顔を赤くした慎士。


「うるせぇ!コケたくてコケてないからな!こんなところに溝を作ったやつが悪い!」


 これはお主のミスなのだ……。まぁ、俺からも下はよく気をつけるように言っておくとしよう。


「まぁ、とりあえずこれで拭いといてね」


友結が純白のハンカチを慎士に渡す。


「ああ、すまないね」


 顔を拭くと、さっきまでは真っ白だったハンカチが一瞬で黒くなってしまった。慎士が友結を見ながら申し訳なさそうにハンカチを持っている。


「ごめん。今度洗って返すからそれまで持っていていいかな?」


「大丈夫だよ。またどこかでね」


2人はお互いに微笑み合い、俺と優梨に向き直る。


「時間を取ってしまってすまない。では、改めて行くとしよう」


 今度は線路をしっかりと渡り切ることが出来たのでよかった。さすがに2回コケたら殿堂入りよ。


 駅内にいった後、元気な駅員さんから券を買い、関西行きの機関車に乗り込む。乗車時にはなんだかよく分からない緊張があって少し背筋が伸びていたかもしれない。


「1年3組6番荒井 龍、乗車します!!」


 なんとなくのノリだ。主に遠足の時によくした気がする。遠足のような行事だけには必ず出席する俺君よ。すると続けて、


「1年3組9番竹村 慎士、乗車します!!」


「1年3組7番稲見 友結、乗車します~」


「1年4組6番風祭 優梨、乗車します」


 なんだか自分達が幼く見えてきてなんだか面白おかしくて少し笑ってしまった。1番前を歩いていたから後ろの3人には見られていないだろう。


 そんなことより、俺のクラスの人の名前の始まりが『あ』の人多くね?それと、『い』の友結と『た』である慎士の間が1人しかいないのがヤバいと思う。どんなクラスの分け方にしたんだよ…………。今更そんなことに気づいてしまった。どうでもいい…………。


乗車してすぐに会話が行われることは無かったが、機関車が動くと4人が向かいあった席で慎士を中心として会話が始まった。


「機関車という普段乗らない乗り物から見た景色って何か違ったものを感じるよ。普段乗る電車なら景色は一瞬で消えていくけど、機関車は割とスローリーだからね。その分景色という存在に近いって思えるんだ」


「景色と景色が移り変わる瞬間ってのもいいんだよね~。それぞれの景色のおもむきっていうのを感じるのが好きだな~」


「関西へ行くまでにどれだけの景色が見れるのかしらね。長い機関車の旅になるわよ」


 ただの雑談ではあるのだが、その様子がとても微笑ましい。やはりこういった安息の時間というのは大切なんだと改めて思った。常に戦いに備えていても精神がもたないだろう。


 そんな様子を見ていると、不意に声をかけられた。友結だった。


「龍は関西へ行ったら何をしたいの?」


 特に考えていなかった。そもそも関西へ行くことを決めたのも戦いの流れってやつだからだ。だが答えないわけにもいかないだろう。

わざとらしい笑顔で言う。


「新たな……出会いだな」


 3人とも口を開けてポカーンとしていた。そんなに俺の言ったことが変なんだろうか。珍しいからか?そう考えていたが余計だったようだ。友結は優しく微笑みを浮かべる。


「いいことなんじゃない?わたしは龍が自分から出会いを求めるってことに感動しちゃったよぉ~」


「そうか。そう言ってくれるとは嬉しいぜ。敵だとしても友好的なやつでもそれは出会いに入るからな。要するにゲームを楽しめればいいんだよ」


「その考え、大切にしなさいよ」


優梨がやけに強く言ってくる。………そういうことか。


「ああ、もちろんだ」


 そういった考えがこのゲームを勝ち進むために大切なことであると感じている。それと同時に、人を変えるものとも。


「まぁ、それは関西に着いてからのお楽しみだね。僕達は今はこの機関車の旅をエンジョイしようか!リアルでも機関車に乗る機会は少ないんだぞ!」


 慎士の言葉と共に4人の視線が真ん中で交差した。それと同時にみんなで笑顔を作った。まるで4人の意思が一致したようだ。こんな時間がずっと続いたらいいなと思った自分がいる。


 機関車はガタゴトと鳴らして決められたレールをただ進む。だが俺達のレールは決められているわけではなく、レールは自分で敷く物だと思う。もしそれが苦行へ続くように土地が決められていたとしても――――――。














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