第32話 黒の彗星 後編

「ハハハハハハッ。これで…………何人だ?もう途中から数えてなかったな」


彼、神田 業士の足元には血をいたるところから吹き出した死体が落ちている。顔は面影を残さず、腕、腹からはような傷ばかりだ。こちらの世界に来てからはずっとこの調子である。路地裏で待ち構え、人が来ては遊ぶ。単純な作業だがその過程が楽しい。


(さて、そろそろ夜になる。寝る場所でも探しに行くか)


路地裏から出る際に彼は死体を一瞥して、


「じゃあな。本当は本物のヒガンバナを飾ってやりたいんだが生憎持っていなくてね。これで我慢してくれ」


彼はそう言って指を鳴らす。すると死体は腹が穿かれたような血しぶきを上げる。もう死体と呼べるのか分からないぐらいになってしまった。


それを作った当の本人はポケットに手を入れながら夕方の街へと歩き始めた。




〖〗

「いい家だ。これなら久しぶりにぐっすり眠れそうだ。ゲームの中だがな」


適当な家へ入ってみたが当たりだった。中には1人暮らしのガキだけ。2階建ての家で、風呂、トイレ、倉庫が確認できた。倉庫には食べ物が多くあった。どれも保冷剤代わりの氷に包まれている。冷蔵庫が無いのだろうか。


中から最も近くにある焼き魚を取る。飯も久しぶりだ。リアルではそんな暇なかったからな。VRでも食べてるという感触は恋しい。すぐに口へと運び、かぶりつく。魚についた塩の味が染み渡る。おもわず笑みが出てしまう。


「あー、美味い。少しが部屋に漂っているが逆にそれがいい調味料だ。……………………今後のためにもとりあえずこの中のモンは持っていけるだけ持っていくか」


明日、この家を出る前にバッグにでも詰めて持っていくことにする。肉類はダメになってしまうから持っていけない。保冷剤さえあればな。ケッ、肉は大好きなのにな。別に野菜や魚も嫌いではないが肉の方が勝ってしまう。


腹が満たされるまで食べ物をひたすら口に入れる。それがどれも美味く感じられるのだ。


(空腹は最高のスパイス、てな)


食べ終えた瞬間、眠気が襲ってきた。腕時計を見るともう23時になっていることが確認できた。


「んじゃ、今日は寝ますかな」


2階にはベッドが置いてあったので、布団の中へ潜る。温かい。リアルだとほとんどが野宿だったからありがたいぜ。ほとんどのやつが戸締りをしっかりしているからな。この世界だとその辺りはゆるそうだ。


布団の中に入って数分で俺は眠りについた。




〖〗

「あー、いい目覚めだ」


熟睡することができた。なんとなくいつもより調子がいい気がする。起きてからまずやることは………………。


「さて、時間はどうかな?」


10:00


「あ、少し出遅れたか。もう戦いは始まってるだろうなァ。待ってられねェ。今から行くぜ!」


そう言い放って俺は階段を高速で降りていく。玄関を出る時に周りで虫が多く湧いていたがそんなことは気にしなかった。楽しみで仕方がない。本気で殺し合いができることがな。俺は街を走りまくる。プレイヤーは腕時計をしているはずだ。そいつを見つけて喧嘩をふっかける。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!出てこいやぁ!うぉぉぉぉ!!」


―――――――2分後


「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙見つからねェェェェ!!」


街の付近の森の中で俺は叫ぶ。悲しみの叫びだ。どうしてこんなにも見つからねェんだ!約1万人だったよな!?嘘だろおい………。なんだかイライラしてきたぜ………!


「オラァ!!どうして!誰も!来ねェんだよ!!」


近くの木を蹴り、ひたすら八つ当たりをする。なんのためにこの世界に来たのかが分からなくなってしまう。


「……………はぁ」


ため息をついた瞬間、


――――――ドカッ


「痛っ。………あ?誰だ今俺にぶつかったやつはよぉ。出てこいや!」


何かが自分に当たった。当たってすぐにそれは明らかに人間なのだと理解した。


――――――ヒュン


「ぐおっ」


今度は思い切り腹パンされた。だがそれを行ったやつは見えない。いや、と言うべきか。この行為をするやつは決まっている。


「――――――ようやく来たかプレイヤー!俺は待ちくたびれてたんだよ!ほら、殺り合おうぜ?」


俺の待っていた瞬間が来たのだ。構えた瞬間、何者かが目の前に立っていた。こいつが異能力者だろう。黒の制服に身を包んだ男。顔はキリッとしていて、冷静さを保っている。クール系男子か……。


「お前…………学生じゃないな?…ん?お前の顔を俺はどこかで見た事があるような?」


ああ、知ってるかもな。割と有名人か?


「こう名乗れば分かるか?俺は だ」


俺が名乗ると、彼は最初は驚いた顔をしたが、すぐに普通の顔に戻る。


「まさか殺人鬼がこのゲームに参加しているとは…………。何か深そうだな……………。ただ、お前はイレギュラーの存在だ。ここで消えてもらおうか」


「やってみろよ。さあ、俺を楽しませろ」


「[加速アクセル]!」


目の前の青年が高速で走り出す。普段よりもさらに超えた速さで走ることのできる能力か………。最初に食らった攻撃力を考えるとすると―――――――――


(これなら余裕だ)


「俺の名は山田 駆琉かける!陸上部の永遠の2番手さ!どうしても1番になれなくて迷っていた俺はこの世界で力を手に入れたんだ。これなら負けやしない!」


目の前の少年が超速で迫ってくる。目で捉えるとはほぼ不可能に近いが――――


「ふんっ」


腕をクロスにして、来るであろう打撃を受ける。


「うぁッ」


速度を乗せた拳はなかなかの威力をほこる。少し仰け反った。だが、


「そんな貧弱な拳じゃ効かないんだよなァ」


ナイフならまだしも拳で俺が簡単にやられるわけがないだろう?


「!?」


驚いた少年は危険を感じたのかすぐに後ろへと下がる。ああ、いい感だ。少しがな。潰すにはまだ足りないか……。


「ほら、もっと攻めてこい」


「そうか。なら倒れるまでやらせてもらうとしようか」


再び彼は[加速]により高速の動きを実現する。俺から攻撃を当てることは叶わないだろう。一方的に俺がダメージを受けるだけ。実際、ほんの数秒の間に何十発もの拳や蹴りを受けている。とても厄介ではあるが俺からすれば―――――


「やはり効かないな!所詮は人間の拳。攻撃力なんてたかが知れてンのよ!」


それでも彼は何度も攻撃を浴びせてくる。俺が完全にダウンするまで粘る気だろうか。俺の打たれ強さはとんでもねぇぞ。そして、残念だったな。もう終わりだ。戦いってのは案外早く終わるモンなんだな。俺は指を掲げて、


―――――パチンッ


鳴らした。その瞬間、


「ぐっ………ああああああああぁぁ!!」


急に少年の拳や足から血が吹き出る。今までこの世界で人を殺して来た時と同じ現象。少年は拳を抑え、膝をつく。


「ハハハッ、見事に決まったな。どうだ?芯からくるのは痛いだろう?これが俺の異能力

[惨死彗星シューティング・デス]。こいつは俺が触れる、または触れられた相手に負の力を送り込み、それが一定数溜まると好きなタイミングで具現化し、炸裂できるというモンだ。こいつの何がタチ悪いかっていうと、炸裂したそれは体の内から相手を穿くってのと、死体にも使えるってことよ」


「くっ、そういうことか。俺は何も攻撃を受けてないと思っていたが、実はお前に触れた拳から力を送り込まれていたんだな……」


そういうこと。だから俺が耐久さえできれば勝ちだったのよ。一通り説明は出来たか。ならそろそろ、


「そろそろトドメといこうか。たかがその程度で死ぬわけないだろ?今度はしっかりと沈めてやるよ」


「うわぁぁぁぁぁぁ!やめろぉぉぉぉ!!」


少年が必死に立ち上がり、逃げようとする。だが思うように立ち上がれないようだ。そりゃそうだ、足の根元から炸裂させたんだ。もう自分の力では困難だろうよ。


俺は少年の顔面を片手で掴み、力を入れる。少年は必死に抵抗しているが俺の力には届かない。


「お前さァ、そんなカードに頼って強くなった気でいてみっともなくないのか?勝ちたいなら自分の力で勝ち取りな。ま、この世界からは消えるから向こうの世界へ戻ったら鍛え直せや」


「うっ、ああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!」


――――グチャッ


少年の顔面のありとあらゆるパーツが炸裂され、血が辺りへ飛び散った。当然目の前の俺にも吹きかかった。強い鉄の匂い。俺は口周りに付いた血を舐めとる。やはり新鮮な血は美味いな。


力を込めていた左手を放すと、が地面へと落ちる。


「あーあ。これじゃオブジェにすらならないな。少しやりすぎたか」


そのオブジェとやらは地面に落ちた瞬間に光の結晶となってこの世界から消えていった。オブジェがあった場所には1枚のカード。俺は手に取る。


「こうやって殺しながらカードも集めていくんだな。簡単なことだ。………………ふぅ。さてと、次の獲物を取りに行くとしようか」


いちいち殺したやつのことなんか気にしてなんかいられない。俺はたくさんの楽しみを得たいんだ。


彼は血の付着したジャケットを翻し、森の中をただ歩き始めるのだった。






























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