関西編

第31話 黒の彗星 前編

「ああ………せいぜい俺を楽しませてくれよ?」


暗闇の中にそれはいた。黒のジャケットに身を包み、身長は175cmくらいでボサボサな金髪の男。全体的に痩せ気味ではあるがそれでも彼の周りに漂う空気は重い。まだ20代前半のように見える。彼は暗闇の中から出てくる。暗闇の中を見てみると、そこには腹や顔面に真っ赤なヒガンバナを咲かせた人間がいた。もう誰なのか特定するのも不可能だろう。


「さあ、次はどんなやつが俺を楽しませてくれるんだ?」




〖〗

<龍達がゲームを始める1時間程前>


「警部!こちらD班!現在逃亡中の殺人犯、神田かんだ 業士ごうしを発見!ただいま交差点を曲がり、逃げ切るつもりのようです!」


「なんとしてでもやつを捕えろ!放っておくだけで何人の犠牲者が出るか分からん!やつは紛れもなく殺人快楽者………。サイコパスだ…………」


殺人犯 神田 業士 24歳。彼はイライラした。ストレス発散のためなどという理由で何人も人を殺してきた。初犯は彼の家庭内で起きた。彼の父親は酷く横暴で、毎日のように母親への暴力や恐喝があったらしい。その被害は神田にもあった。彼の身体には今でも消えない傷が残っている。


そして、その環境にイラついた神田はついに両親を撲殺。殺した後は行方不明になったがその地域で神田に殺されたと思われる死体がいくつか発見された。死体には全て共通の点があった。それは、死体には毎回ヒガンバナが置かれていたことだ。なんのこだわりかは分からないが、血を覆うように置かれている。もちろん両親の死体にもヒガンバナが置かれていた。


前に彼が人を殺す場面を見た者がいた。証言によると、神田は相手を殴る度に笑い、楽しんでいたそうだ。彼はストレス発散だけでなく、共に楽しんでいるのだ。人殺しに快楽を覚えたらもう終わりだ。それくらいのヤバい相手。それが神田という男なのだ。


実際、自分の部下にもやつに首を突っ込み、重傷を負ったものも少なくない。部下のためにもやつは捕まえなければならない。

―――――――――――――――――――

「クソサツどもが。遅せェんだよ。そんなんじゃ俺は捕まえられるかっての」


俺は交差点を曲がり、近くのコンビニ前を通る。そこには1台のトラック。中を見てみると、運転手が居眠りをしていた。


(こいつで逃げ切るか……)


鍵は閉まっていないようだ。不用心なやつだ。だから俺みたいなやつが来るんだよ。


「オラァ!!」


運転手を掴み、車の外へと放り出す。地面へ叩きつけられた衝撃で運転手は目を覚ます。慌てた様子だったがもう遅い。俺はトラックを走らせる。とりあえずは遠くへ行くとしよう。サツが来ない場所にな。


「ハハハッ!!お楽しみはこれからなのよ!」



〖〗

車を走らせて1時間程経った。町外れにある廃墟にトラックを停め、俺は外に出る。


「こんだけ離れれば十分か…。………このトラックはもともと何を運んでいたんだろうな。少し見てみるか。食い物なら助かるんだがな」


トラックのコンテナ部分を開ける。そこには何箱かのダンボール。気になってその中身を確認する。それは食べ物などではなかった。どの箱も同じ物が入っていた。


「んだよこれは?ゲーム機?………説明書が入ってンな。これが何か分かるだろうな」


――――バトルロワイヤルVRMMO


「バトルロワイヤルってことは殺し合いをするってことだよなあ?ハハッ、まさに俺のためにあるモンじゃねェか!ちょうどいい、サツどもに追われてイライラしてたんだ。これを使わせてもらうぜ!」


使い方を見てみると、ただ頭に装着するだけで大丈夫だそうだ。俺は早速装着する。内心、とてもワクワクしていた。思う存分殺すことができる。思う存分楽しめる。そんな世界へ行けることがなんと素晴らしいことか。


「さあ、俺を楽しませろ」


そこで俺の意識は消えていった。




〖〗

「ここが戦いの会場か?」


周りをみると人ばかり。高校生くらいだろう。制服を着ているし。俺1人だけジャケットは目立つ。最後列でよかった。だがこんなにいるのさすがに減らしたくなるな。少しイラつき、拳を握りしめるが我慢する。


落ち着いて状況を把握しようと思う。ここは見た感じどこかの教会だ。そしてこのガキ共はプレイヤー。つまり俺の相手。だがこんなにいれは1人では厳しいだろう。


しばらく待っているとハゲのおっさんが教卓の前に立つ。何かの説明が始まったようだ。耳をすませる。


(ふーん。この世界だとそれぞれが特殊な力を持つことができ、それを使って殺し合うのか。なかなか楽しそうじゃん。どんな異能力を手に入れるかも楽しみの1つだな)


ハゲの話は数分続き、説明をし終えると去っていった。


(とりあえずどんな世界でルールなのかは分かった。好きなだけ殺し合えってことだよなァ。うずうずする)


話が終わると、次第に人が教会の出口へと向かい出す。俺も着いていく。教会の外に出る時、自身が少し光ったような気がする。ポケットに手を突っ込もうとしたとき、腰に何かあることに気づいた。例のカードケースだ。なんの異能力を得たかをすぐに確認する。俺の心を写しとった物が異能力のベースとなるらしい。


(ふーん………いいな、これ。俺にピッタリじゃねェか!)


興奮を隠しきれない。すぐにでも試したい。だが今は全員無敵時間。することは特にない。


辺りを見渡してみると、自分の見たことのある光景があった。


「ここは…………大阪の街か?いや、似ているようだが少し違うな。なんにせよモチーフは大阪だろうが」


神田の出身地は大阪である。産まれた時からだ。街自体の構造はほぼ把握している。サツから逃げるための最善のルートを導き出すには地形を覚えるのが手っ取り早い。


「はあ~、せっかくの殺し合いゲームなのに24時間も待ってられっかよ。早く殺りてェ。好きなときにストレスを発散出来ないとはな…………イライラしてきた」


無敵時間でもいい。誰かを殴りたい。そういう衝動にかられる。俺は路地裏へ潜み、誰かが来るのを待つ。早く来い、早く来い。


路地裏で待ち続けて数分経ったころだ。まだ10代くらいの青年が路地裏へ入っていったのだ。待ちに待った瞬間だ。


「さて、今日はあの子の誕生日だ。早くプレゼントを買いにいかなきゃなー。花が好きって言ってたかな?花屋へ向かおう。それで、思いを伝えるんだ!」


呑気なやつだ。


「なァ、俺がいい花を教えてやろうか?」


「え?」


青年の腹に左拳を1発入れる。


「ガァッ!!………な、何を……っ!」


「それはなァ――――――」


「ヴォッ!!」


今度は顔面に拳を打ち込む。いい感触だ。これがたまらなくいい。青年は吹き飛び、地面へと叩きつけられる。その瞬間に俺は指を鳴らし、


――――――グチャア


青年の腹、顔が内から四散した。目、頬からも血が吹き出している。正確には穿つらぬかれたという方が正しいかもしれない。


「ヒガンバナっていう花だ。ほら、お前にも咲いてるぞ」


青年はもう動かない。もうと化したのだ。


「ああ………少しスっとしたぜ。………なんかこいつの目の前に落ちてンな。…………ダンボール箱か。今まで気づかなかった」


おそらく、これにプレゼントを入れて彼女にでも贈るつもりだったのだろう。丁寧に塗装までしてある。その時、これと死体を見て俺はふと面白いことを考えついてしまった。フフッ、早速実行へ移そう。神田は笑みを浮かべながら作業を開始する。




〖〗

「はあ、彼はまだかしらね?」


今、ある少女は1人の青年を待っている。人形のような整った顔で黄色い髪の少女。青年が明日に君の家へ行くよ、と彼女に伝えた。朝から何だろう?と思ってずっと家にいた。青年とは幼なじみで、よく遊んでいた。今でも時々一緒に出かけたりする。そんな中で度々思うことがあった。


(向こうはどう思っているのかな………?わたしは――――――――)


――――――――コンコン


ドアを叩く音。彼が来たのだろうか。期待を胸に込め、玄関へと向かう。


「はーい、今出るからね。…………あれ?」


「あ、こんにちは。お届け物です」


ドアの前にいたのは青年ではなく金髪のジャケットを着た男だ。配達員かな?でも配達員の格好じゃない気がするけど………………。彼は手に持った塗装されたダンボール箱を手渡してくる。何が入っているのだろうか?


「あら。ありがとうございます。でも、わたし頼んだ覚えなんてないんですが………?」


「うーん、そうですか。一応中身の確認をお願いします~」


「はい」


初めて持った時凄く重く感じた。何が入っているのかは疑問に思っていたため、確認できることはありがたい。もし知ることができなかったら何が入っているのか頭の中でずっと考えてしまっていただろう。すぐに考えてしまう癖を無くしたい。ラッピングを解き、箱の蓋を開ける。


(中身は何かな?)


それを見てわたしは衝撃を受けた。


「え……あ…………あなた………嘘でしょ?…………う……あ……オエエエッ」


少女は床へものを吐き散らし、嗚咽を漏らしながらへたり込む。少女が見た物は―――


「どうかな?彼に咲いたヒガンバナを配達してやったよ!箱に入りきらなかったから頭部しかないけどな。それでも彼の顔を見れて幸せだろ?ハハハハハハッ!」


―――――パチンッ


ただ笑う男が指を鳴らした瞬間、青年の頭部が弾けた。元々顔面のほとんどから血がしたっていたが今度は頭部自体が四散して周りへ飛び散り、彼女の顔へと付着する。


「あ……………あ………………」


彼女の下から何か漏れている。はあ、こんなことで失禁してしまったのか。男は呆れながら言う。


「なァ、お前は何もしねェのか?復讐とかさ。俺はそういうのを理由にかかってきたやつを潰すのも好きなのよ」


「……………………………………………」


何も喋らない。イライラが募ってくる。俺からすれば何もしないやつが1番面白くない。目を尖らせ、


「つまらねェ。…………つまらねェっつってんだろ!オラァ!!」


少女の顔面に蹴りが入れられる。鼻血が流れ、髪はぐしゃぐしゃになる。ひたすら少女を男は踏みつける。骨が砕け、血が滲む。それでも彼女は何もしない。しばらくすると男は少女を一瞥し、


「はあ…………。次行くか」


―――――パチンッ


少女の顔面、肉体から血が吹き出し、家の中を真っ赤に染める。男、神田 業士は家を出る。家の中にはただ2つのヒガンバナを咲かせたが残るだけだった。


家を出た神田は再び路地裏に潜伏している。


(最期はつまらんかったが失禁したシーンは最高だったぜ。絶望に染まった顔はよぉ。ハハハッ。そして、これを通して分かったことがある)


―――――プレイヤーじゃなくてもこの世界の人は殺すことができる!


(なら楽しさ倍増かァ!この世界で何人を殺せるかな?)


この無敵時間中にも異能力は使えるようだ。他のやつは知らないかもしれないが。本番が始まるまでは使えなさそうなイメージはあるからな。さて、本番が始まるまではその辺のやつで遊ぶとしようか。


首を回して不気味な微笑みを浮かべ、


「さぁ、俺を楽しませろ」


そう呟き、新たな人を探しはじめた。



―――――――――――――――――――

作者です。こいつが1番出したかったキャラクターです。フレーズ詐欺ではありません。

学生なので問題ないはず……。


とにかく物語においてイレギュラーとなる存在は必ず出したくて、ちょうど章の変わり目なので出させていただきました。私の書いている小説の中でも最悪のキャラクターかもしれませんね……。では、今後もよろしくお願いいたします。
















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