第30話 1週間の終わり 後編

「うめェー!!久々だぜこの味はよォ!身体に力が込められてくるぜ!」


「こんな美味いものを食べたことがない!ここまでろくなものを食べてなかった影響だ!……もも肉美味いな」


「はい、早く新しい肉注文して~」


「そんな慌てて食べるとタレが新品の服に飛び散るわよ」


俺と慎士が〔スタミナ三郎〕に着いてから数分後に女子達は来た。もちろん2人も新品の服を着ている。友結は赤のロングコートとスカート。優梨も同じくロングコートにスカートだ。カラーは両方とも青色。友結の場合はカラーと見た目から可愛いらしさというものがあるだろう。逆に優梨の方はクールな感じだ。いや、これ全員ロングコートじゃねェか。明らかにチームですよ感が出てンぞ。なんか強そう。俺達のカラーは黒、白、赤、青だ。見栄えもなんとなくいい気がする。


「この場を手に入れさせてくれた班長にはとても感謝しきれねェな」


「班長さんは話を聞く限りとても優しい人だね~。ねぇ、肉焦げてるよ」


「そうだよ。班長は優しい人だ。丁寧に指示をしてくれるし、気を配ってくれるんだ。そちらの店長さんもいい人だったみたいだね。あ、飲み物追加で」


「ええ。とてもいい人だったわ。でも自由というイメージの方が強かったわね。よく寝てるし。それでもやるときになったらしっかりやるし、みんなからも信頼を置かれてるようね。実際一緒の空間にいてそう感じられた。わたしの焼いた肉を取らないでくれない?」


「全員が充実したバイトでよかったじゃねェか。あ、その牛タン俺のな」


「では、改めて俺達のバイト終了。そして新たな生活へ乾杯!」


「「「乾杯!!」」」


グラスを打ちつけあってみんなで笑い合う。微笑ましい光景だな。あ、もちろん酒、ビールじゃないからな。中身はオレンジジュースだから安心してくれ。……誰に話してンだよ俺。その後、時間いっぱいまで料理を食べるだけ食べる俺達だった。




〖〗

「あー、苦しい。食いまくったぜ。これでしばらくは生きていける」


「次焼肉に行くときが果たしてあるのだろうか」


今俺達はアルティメット格安の宿にいる。もう[幻想の書]は無いわけで、当然家などない。んで、宿に泊まることになった。なんと、ご飯抜きなら1人2000円でいいらしい。普通のホテルなら大体6000円は超えるからな。


宿ではバアさんが部屋まで案内してくれた。あ、女子達とは別の部屋な。部屋は格安ということもあり、ボロさは覚悟していたがそこまで汚いわけではなく、手入れが行き届いているみたいだ。部屋自体窮屈には感じない程度にはそこそこ広さはある。シャワーもある。これ2000円ってレベルじゃねェぞ!シャワーは浴び終わり、今は寝る用の服を着ている。


「また金を手に入れられたらな。とりあえず明日にはこの街から移動するんだろ?どうやって移動すんのよ。あと、どこへ向かうんだ?この世界の地形のモチーフが日本なら今いる名古屋・Fは真ん中部分だろ。関東へ行くか関西へ行くか」


考えることもなく慎士は即答する。


「関西だな。理由ももちろんある。関東は都会なイメージが強いからな。その分人も多く集まっているだろう。戦いはそこでは多発しているってことなんだろうな」


「ふーん。つまり俺達はあまり戦う気はないってことか?」


「まあ、それに近いとは思う。だが逃げるわけじゃない。人数が減ってきたらそちらも行くさ」


「その肝心の人数だが――――」


腕時計を見てみるのだが


――――――8700人


「まだ多くね………?」


「うん。やはり関西だろう。行くなら2000人ぐらいになったらにしよう」


まだこの世界に来て10日間くらいか?1日30人くらいのペースで脱落していってるな。順調にいけば1年あれば終わるだろう。ただ、後半になればなるほどプレイヤーを見つけるのも大変になるからもっとかかるだろうな。


「で、移動は?」


「それはだな…………蒸気機関車があるんだよ。この街には」


「ん?蒸気機関車ってリアルだともう動いてないよな?それにそこまで遠くは行けなかっただろ?」


実際、リアルで蒸気機関車が使われていたのは随分前だ。今は展示のみとなっている。


「どうしてかは知らないがこの世界だと普通に運行していて、さらに遠くまで動くことができるようだ。まったく、この世界の歴史はどうなっているのかね」


「同感だ」


「この街だけでも色々なことあったよな…」


慎士が窓を開けて呟く。


「ああ。慎士が土下座して、優梨と出会って、ストーカー紛いのことをして、バイトをして、そこで友達と呼べるであろうやつもできた。そして、別れもな……」


「俺の土下座は忘れろ。あと、ストーカー言うな。ボディーガードだ。とにかく色々あったけど楽しい日々だったよ。これからもこれが続くといいな」


「そうだな。そんな日々にするためにも今後もよろしく頼むぜ」


「うん。こちらこそ。………見てよ。雲1つない綺麗な夜の空だ。まるで彗星でも降ってきそうだね」


「こういう夜景ってリアルじゃ全然見たことなかったな……。ゲームだからこそってやつだな」


「……………そろそろ寝ようか。明日は朝イチだろうね。寝坊しないでくれよ?」


「それはお前だよ。馬鹿め」


部屋の電気を消し、各自布団の中へと潜る。


「おやすみ」


「ああ、また明日な」


これで色々あった1週間は終わりを告げた。そして新たな日々をこれから味わうだろう。期待を胸に込めて眠りにつく。


だがこの時は思いもしなかった。この間にも本当にが迫ってきていることを―――――――――――


―――――――――――――――――――


「ああ………せいぜいこの俺を楽しませてくれよ?」


彗星は近い。



―――――――――――――――――――

作者です。これにてバイト編は終了となります。本当は笹森や沢木についてもっと掘り下げたかったです。そうすると茶番が多くなりすぎてしまうので。


ともかく、これでこの世界での話は3割くらいまで行きました。そろそろ物語の核が動きます。次の人物は作品を書く上で1番出したかったキャラクターです。では、今後もよろしくお願いいたします。






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