第27話 てめぇは誰だ! 慎士版 前編

龍とは別の、森の奥にて。


「やあ、君の方から来てくれるなんて嬉しいね!俺も探していたんだ」


どこにいるか分からない敵に呼びかける。その時、前の時と同じ寒さを感じた。嫌な予感がしたため少し後ろに跳ぶ。案の定地面には突き刺さったツララ。


「おお…………挨拶ぐらいしてくれよ。ちょっと危なかったな」


もうやつは戦闘態勢のようだ。どこにいるかは分からないがこの手の物体操作系は目に見える範囲にいないといけないとかの制限はあるはず。だから今いる辺を回っていけば最終的にやつは見つけられると信じている。正直、見つけるまでが勝負だと思う。


「じゃあ、俺も殺らせてもらおうか」


この場所に来るまでにあらかじめバッグから取り出しておいた[幻想の書]とペンを構える。前のこいつとの戦いでは俺のペンの書く速度なら全然防御が間に合うことが分かった。ただ、間に合うだけで攻撃の隙を与えてくれるほど甘くはないがな。それほどまでに相手の腕の良さが光る。


「――――――――――――!」


真っ先に盾を具現化する俺。速攻で書いたため、耐久力は無いが、防御手段は多くするに越したことはない。なぜなら、



「あー、ちょっと君、凄い冷えてるねぇ。こんなに大量の氷を生み出しちゃってさあ」


常にやつの攻撃は目の前、後ろ、横。上にもあるのだ。さばききるなんて上芸が上手くできるわけがない。盾は浮遊していて、それが俺をある程度は守ってくれる。現在進行形でツララや水が俺を襲っている。だがそのひとつが横を守っていた盾を貫通し、腕を軽く切って飛んでいく。


「あっ、痛いだろうが![痛遮断ペインシャット]起動で」


やはりこうでもしないと簡単に倒れてしまう気がする。痛みというものに早く慣れないといけないんだがね。それでも怖いものだよ。


四方八方から飛んでくるツララ。守ってばかりじゃいつまで経っても終わらないよな。真上から降ってくるツララを避け、ノートに文字を書き込む。


―――――――――剣、剣、剣


具現化した何本もの剣を自分の周りを囲うように配置し、一斉に飛ばす。これで全方向を攻撃できる。もし、草むらに潜んでいるだけなら串刺しにして終わりにはなるんだがな。


剣が横から襲うツララを割りながら突き進んでいく。だが、


――――――――パキパキ


「何!?剣が落ちただと!?あ、氷で壁を作ったのか!しかも全ての剣の先にねぇ…やるじゃないか」


ここで全方向に壁を作る理由は、あるひとつの場所にだけ建てるのではその方向にいると伝えるようなものだからだろう。頭も回るようだ。そして、驚いたのはそれだけではない。剣を防がれた俺の周りにはツララが囲っている。四方八方だ。


(応用能力もあると来たか……。まあいい、もあることだし)


俺を穿つらぬこうとしてツララが一斉に襲ってくる。一見、回避は難しいと思えるだろう。それでも難しいだけだ。


(全力でしゃがめ―――――――)


俺の持つ反射神経を全力で研ぎ澄まし、アルゴリズム体操の如くスムーズにしゃがむ。ツララは俺の頭部スレスレを通過していき、やがて地面へと突き刺さり、溶けた。タイミングさえ良ければこのように回避出来るはずだ。


(ツララを横にー、あら危ないってか?マジで命かけた体操だな。洒落にならないね)


今もツララが目の前を通過していくが、なんとなく回避は上手くなってきている気がする。空気に敏感ということもあるから急に冷えたら分かるからね。あ、来るってのが分かれば方向に気をつけれさせすればいける。それでも、


(こっちが攻める側になれてないからな…。ならそろそろサイドチェンジといこうか)


俺はペンを捨て、ポケットから、〔ハッピーホーム〕のゴミ箱をこの1週間漁って手に入れたライターを3本取り出す。喫煙者かなり多かったなぁ。班長は吸わなかったけど。あと、中途半端にライターの火を残すな。発火したら危ないだろう。


ライターは以前、やつから逃げるために使用している。あの時は倒すことではなく逃げるを前提にしていたからフル火力が出せなかったんだが今回は違う。もう殺る。は見てるやつはいない。存分にを使える。


「さぁ、お前の正体を見せろ!」


ライターの火を3本同時につける。熱っ、少し火が指に触れやがった。まあ、3本同時だから仕方ないね。


―――――――――ボッ!


火が揺らめくそれらを俺は全力で上空へと投げる。そして、腰にあるケースから[幻想の書]のカードを抜き、


「ここで使わせてもらう![覚醒]だぁぁ!」


カードが砕かれ、その結晶が自身の身体へと取り込まれる。不思議な感覚だ。俺の脳内に何かが流れてくる。


(これはなんだろうな………記憶…。元の持ち主の記憶。鈴木の過去か………)


映像では鈴木が必死に汚い字で黒板に書いてあることを写す姿。そして、誰も立候補しない書記に自ら進んで立候補したこと。


(カードは持ち主の心に影響するとか言ってたっけな…。だから鈴木はこういう異能力を手にしたというわけか…)


今はペンは消え、ノートだけが手に残る。[覚醒]は今したばかりだが何故かこの[幻想の書]という異能力の真の力というものが分かる。


「さあ、お前の力を俺にみせてくれ!」


ノートが光り輝き、文字を羅列し始める。そう。[幻想の書]の[覚醒]効果はオート機能の追加。自身が望んだものを自動で高速執筆してくれるのだ。襲撃者はツララを作り、俺の方向へと飛ばしてくる。だがしかし、


「もう遅いんだよ」


俺は具現化された小型シェルターに全力でイン。身体が全部入った瞬間に


―――――――――――パチンッ!


指を鳴らす。すると、空中に投げたライターを軸に次つぎと爆破が起きていく。それは以前起こした爆発より大きく、ただ連鎖するのではない。俺のいた場所を囲っていた草むらや木をすべてなぎ倒していく。爆発により引火した木は燃え、段々と火が上がっていく。この場合、やつならどうするか。


「ま、そうするよな」


シェルターを出ると、火は空中から溢れ出る水によって鎮火されており、そこにはただ1人佇む男。


「お前の異能力がどんなものかは前戦った時点で大体の予想は出来た。最初は氷と水を生み出すとのかと思っていたんだけど最後になって確信したよ。お前の異能力はではなく、だろ?」


彼は無言になる。


「名前も答えてやるよ。それは、[相転移トランジション]………。つまり状態変化だ!――――――そうだろう? !よくもやってくれたじゃないか」


男―――――――沢木 浩二は笑い出す。


「ハハハハハハハハハ!!!よく分かったね。褒めてあげるよ。そう、僕の異能力は[相転移]だ。気体、液体、固体を自由に変えることが出来る。気体から固体に変えるには1度液体を通るから降ってきた水滴あたりで気づいちゃったのかな。…………まあ、でも僕も君の異能力の正体が分かったかな。さっきの爆発といい、前回の時の爆発。毎回ライターを投げてたからさ」


「……………………………」


「おそらく君の異能力は、げ――――――」


自動執筆により生み出された銃で沢木の喉元を狙い、発砲。だが弾丸は当たる寸前で氷の壁に止められる。


「もうおしゃべりはいいだろう。さっさと終わらせよう。早く焼肉が食べたいんだ」


「そうだね。僕も焼肉は食べたいよ」


沢木が剣を形作った氷を生み出し、握る。更に空気の冷たさが増した気がする。俺はノートを片手で構える。


「じゃあ」


「うん」


「「行くぞ!!!」」


2人の戦いは更に深くなっていく。




























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