第28話 てめぇは誰だ! 慎士版 後編

「「行くぞ!!」」


自らが生み出した氷の剣を左手で構える沢木。片手にノートとそれにより具現化された剣を持ち、空中に何本もの剣と銃をたずさえる慎士。2人は睨み合っている。


最初に動いたのは沢木だ。彼は目の前に生み出して飛ばしたツララと共に走り出す。それに対して俺は空中にある銃で次々とツララを撃ち落としていくが、肝心の沢木に当たることはなかった。その間に剣の間合いに入られる。


「シャッ!」


横から薙ぎ払うように振るわれた剣。片手の剣で受け止めにかかる。見事止めることには成功したが、その瞬間に氷の剣は水と化してなくなった。力を込めて押していたこともあり、押す対象がなくなった俺の剣はバランスを崩し、俺自身をも巻き込む。そして今度は沢木の何もなかったはずの右手に氷の剣が出現していた。[相転移]により、固体である氷を液体である水に戻したのだ。そして、今度は水を氷にした。あらためて沢木が斬りかかってくる。


「そう簡単に攻撃を通すと思うなよ!」


バランスを崩しながらも、沢木を狙って空中にある剣を射出し、沢木の動きを1度止める。その間に体勢を直し、今度は俺が手に持った剣で沢木を斬りにかかる。


「ドリャァ!!」


「ん!」


剣で防がれることはなかったが、その代わりに氷の壁を張られて止められる。止められた俺は即退避を行うが沢木の繰り出すツララが正面から放たれる。


「おっと」


―――――パキンパキン


「こっちも盾を作れるの忘れてないよな」


自身の目の前に具現化した盾がツララの猛攻を防ぐ。盾はしばらく攻撃を受けたのち、壊れてしまったが体勢を整えるには十分な時間だ。


「もちろん分かっているさ。ただ、そのオート機能の書き込むスピードが早すぎるんだ。だけどこっちも負けてられないね」


「そうか。だが勝つのはだ」


「まだこっちには札が残っている。これで立て直させてもらうよ」


そう言うと、霧でたちまち周りが包まれていく。濃い霧だ。沢木の姿がしだいに消えていく。


「逃がすか!」


俺は剣、銃で狙うも彼に当たることはなかった。


「くそ!逃げるのか!」


「いや、逃げはしないよ。ここで君を倒すために手を打っただけさ。ほら」


後ろから極端な寒気がした。反射的に振り向くと、ツララが迫っているのが見えた。脳の中で防がなければという意思が働き、瞬間的に盾が具現化させる。


(もしこいつがオートじゃなかったら危なかったな。はぁ、霧に紛れてコソコソと、か。めんどくさいな。そう何度も防げるわけじゃないからな。早く来てくれればこの状態を突破出来るんだけどなぁ)


俺にはこの状態を突破する手段がある。ただ、今はそれがないだけできっと届くと信じている。そのためにも耐えきらなければならない。


「ま、やってやるさ」


勝負続行だ。




〖〗

戦いを始めて10分近く経った。


―――――――――パキン


―――――――――ザクッ


辺りに響くのは氷が砕ける音やツララが地面に突き刺さる音。どれも俺が止めることによって鳴る音だ。ここまでうまく攻撃をいなしているが、全てではない。予想はしていたがさすがにノーダメージで乗り切るのは不可能だ。実際ツララが身体に突き刺さることもあった。それでも立つことが出来るのは致命傷ではないことと[痛遮断]によるものが大きい。


「そろそろ耐えるのも難しくなってきたんじゃないかな?疲れてきたでしょ。もう休みなよ」


「ハァ……ハァ…………。それは……済まないね。だけど……負けられないから」


「そう。ならほら、これも防いでみてよ」


今までよりさらに強い寒気。


(今回はどこからくるかが分からないな…。全方位から感じる。さて、実際はどうかな)


――――――――――そこだ!


俺は発砲した先にはツララがあった。撃ち落とすことに成功した。だが、それだけではなかった。ツララは横にも後ろにもあった。本当に全方位から飛ばしてきたのだ。盾の具現化が間に合わない。当然、急にきたそれを避けられるはずもなく、


「ガッ………あ…………」


身体のいたるところに突き刺さる。全身に突き刺さるツララが痛々しい。幸いにも致命傷となる部位には届いていないが、出血が多い。立つことすらままならず、地面へと倒れる。ノートも手から落としてしまった。


「これで……チェックメイトかな」


「はぁ………はぁ……うっ…………」


沢木が手に持った剣を俺へと振り下ろす。もうここで終わりなのかな。すまんな、みんな。覚悟を決めた。その時だ。叫ぶ声が聞こえてきたのだ。もうほとんど音の聞こえない耳をすます。それは今まで何度も聞いた声で―――――――


「慎士ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


「はぁ…………ちょっと、遅すぎ……じゃないか」


来てくれた。ここまで耐えたかいがあった…。ノートは落としたが開いてはいる。なんとか隙を作り、勝利のキーパーツを手に入れるんだ!俺はほぼ真っ白の脳で剣を具現化し、沢木の手へと飛ばす。沢木が避けるために仰け反った。この隙をつき、彼女の元へと向かう。


「うっ……………なんだ君は!」


彼女が俺のそばまで駆け寄り、傷を癒してくれる。強引だがツララを抜く。血が多少吹き出たが仕方ない。彼女のおかげで傷はよくなってきた。


「もう大丈夫だ。助かったよ」


「よかった……。ごめんね、遅れて―――わたし?わたしは慎士と同級生の稲見 友結。自己紹介したばかりだけどここで多分君は終わりかな」


「何を言っているんだ!やれるものならやってみてよ!」


そう言われて友結がバッグにあるものを取り出す。


「これは……わかるかな?」


「ああ、ライターじゃないか。それを使った攻撃は知っている。対処ぐらい出来るさ」


沢木がほら、とでも言わんばかりに氷の壁を何重にも張る。俺はその間に立ち上がった。


「でもね、ライターは1本じゃないんだよ」


友結がバッグの中から袋を取り出す。しかも何本ものライターが入っている。それを俺に手渡す。手渡した友結は全力で走って俺達のいる場所から離れていく。30秒くらいして、


「………………………そろそろいいかな。俺がやることはわかるだろう?この量のライター。ここまでは3本とかそんなレベルだったが………その氷の壁でどこまで耐えられるかな?」


「おい、やめるんだ!そんなことしたらお前まで巻き込まれるぞ!」


構わず俺は空中へと袋を放り投げる。その時に、


「[痛遮断]![覚醒]!」


取り出したカードが砕かれ、自身へと吸い込まれていく。さらに、具現化した剣で空中を舞う袋を斬る。狙いはライター。斬られたライターは中身を振り撒き、


「――――――――✕✕✕✕!!」


――――――――大爆発を起こした。前と同じく連鎖的に爆破される感じでだ。爆風が俺と沢木を包んだ。これには氷の壁では耐えきれず、徐々に崩壊していく。


「くっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「―――――――ッ!」


約10秒程の連続爆発が終わり、辺りは完全に炎で焼け焦げていた。それでも森全体に炎が広がることはなく、なんとか抑えられていた。


「ゴボッ……………はぁ…………ど…うし…て…………お前……は……」


吹き飛ばされて木の下にもたれかかっている沢木。顔の半分は焼けており、身体中からは血が溢れでている。骨も何本か折れているようだ。もう長くはもたないだろう。だがあの爆発で平然と立つ男がいた。


「[痛遮断]の[覚醒]。これはもともと痛みを感じなくするという効果だったが、[覚醒]により、痛みをからに変わったんだ。それによって俺はあの爆発の中でもノーダメージってわけ」


「そんな効果なら……もっと早く……使っておけば……よかったじゃないか……」


「確実に君を倒すことが出来るか分からなかった。これは倒す異能力ではなく、守る異能力だからな」


沢木はため息をつき、喋り始める。


「そうか………。ああ……君には完敗だよ……。最後まで……彼女が来るのを……待っていたんだ…ろ?」


「そう。彼女がライターを持ってきてくれさえすれば戦いは終わると確信していた。ただ、そちら側の攻撃に耐えきれなかったからな。危なかったよ……」


「あの量のライター………どこで手に入れたんだ?」


これに関しては単純なこと。


「今日まで俺がゴミ箱をさばくったりして貯めていた。それと、彼女もバイトが今日までだったから買ってくるよう頼んだんだ」


「そうだったのか…。最初から……僕が倒されることは……決まっていたのかもね………ゴホッ……ァァ」


沢木はもう限界のようだ。それでも血反吐を吐きながらも会話を続ける。


「さらに……聞こうか……。慎士…君は……彼女に………異能力のことを…黙っているのかい?」


「そんなことはいいだろう」


「仲間………なら……教えてあげるんじゃないの……かな………」


「…………………敵を欺くにはまず味方からってやつだよ。ま、その時が来たらね。俺からも質問させてくれ。沢木、お前はなぜ[覚醒]を使わなかった?使えば相性的に勝てたはず…………」


「そんなことか…………。ただ、自分を失いたく……なかっただけさ………」


その言葉には今までにない重みがある。


「僕の……これまでの人生は……状態変化のようだった……。気体としてバラバラで過ごした小学生………。液体としてある程度集まってきた中学生………。そして、ついに固体になって一丸となれた………高校生。はは、このカードも分かっているな…………。この異能力は僕の人生をなぞったそれそのものさ………」


「……………………………………」


「ゴホッ……………アァ……………。もう、時間かな…………。最後に……………楽しかったよ…。この1週間…………。もし僕がゲームの使命を忘れていたら………お互いにいい関係のまま…だったかな?」


「いや、そんなことない……。お前が敵になろうがこの思い出は無くなることはない…。ましてや、関係が崩れるなんてことはな…」


「…………そうか………なら……………良かっ……………た――――――――――」


その言葉を最後にして、もう沢木が動くことはなかった。彼は光の結晶となり、この世界から去っていったのだ。2枚のカードを残して―――――――――


「[幻惑のイマジナリーミスト]……それと、[相転移トランジション]……。お前のカードは俺が継ぐ。まあ、生き残るようにでも祈っておいてくれ………」


沢木がいたところを後にするために振り向く。そうしたら友結君がすでにこちらへと走って向かっているではないか。おそらく、静けさが戻ったことで決着がついたと判断したんだと思う。


「さて、これでこっちは終わったよ。龍、お前はどうなったかな」


まだ戦っているかもしてない友を、ただ、生きて帰ってくると信じて歩き始めるのだった。





































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