第26話 てめぇは誰だ! 龍版

「おう。会いたかったぜ?てめぇに刺された分きっちり返させてもらうからな!」


姿の見えない相手に叫ぶ。だが姿が見えなくとも殺気はビンビン感じる。近くにはいるのだ。ただ、場所が分からなければこちらからも攻めることが出来ない。カウンター狙いでいくつもりだ。殺気が膨らむ。だが1度カウンターを受けている相手はそう簡単にやらせてくれず、


「―――――――!!」」


目の前に何かが飛んでくる。俺は目の前に迫ってきた物体から身体を逸らし、避ける。それを見てみるとそれは、


「………………ナイフ。この期間で投擲術を得たのか……。クソッ!めんどくせぇなぁおい!」


これでカウンター作戦は通用しない。やつがナイフを持つ限り俺が不利な状況が続くだろう。だが、


「姿が見えなくてもよぉ。実体があるのは分かってんだ。てめぇの対策なんて俺は考えてあるんだよ」


俺は[海水]を発動。周りに海水をばら撒く形で手を振り、飛び散らせる。するとどうなるか。それはこうなるのだ。


「おっと、そこに空中から水が垂れてる部分があるなぁ。一体何があるんだろうなぁ!」


虚空から水が少し落ちている。そして浮いているものも。それはつまり、そこに何かがあり、引っかかっているということだ。


俺がそこへ向かうと、水があたりに飛び散っていく。やつは走って逃げようとしている。ここで逃がすわけには行かない。手のひらを何者かがいる場所へと向ける。1箇所に炎を集め、[空気砲]の準備。



「はん!逃がさねぇよ!これでもくらえやぁ!!」


その瞬間、俺は叫ぶ。


「ファイアバーストォォォォォォォォォォォォ(命名:俺)!!!」


手のひらから火球が押し出される形で飛ばされ、直前上に進んでいく。そのまま火球は見事に何者かに直撃し、火球は四散した。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあ!!」


何もないところから悲鳴が上がる。相当のダメージにはなったはずだ。それでも姿を現すことはない。


「お前、なかなかタフなやつだな。これに直撃しても姿を現さないとかやるじゃねぇか」


褒め言葉をやつに送ってやる。実際、異能力の維持というのはなかなか神経を使うもので、精神が乱れたりすれば異能力は弱まったり解除されてしまう。


「さて、続きをやろうか。[海水]だ!」


再びやつに水をかけるために[海水]を発動。だが2回目に引っかかってくれるはずもなく、[海水]の射程範囲からあっさりと逃げられる。1度目の時にもう学習されてしまっていた。砂の飛び散り具合で場所を把握することも考えたがお互いが動き回るせいでどこの砂が動いたかが分からない。


(クソッ!水が乾いちまったせいでやつの居場所は分からなくなったじゃねぇか!この状況をなんとかするには……。早く来てくれよ…………頼りなんだからよぉ)


そう。さえ来てくれればいいんだ。そうすればこの状況を打破できる。それまでは耐えきるのだ。次の攻撃に備えるべく、神経を研ぎ澄まそうとしたその時、声が聞こえてきた。


「君は大雑把なやつだと思っていたけど用心深さはかなりのものだね。そんな君を攻めるなんてことは難しいだろう。………でも、君は僕が倒さなければならない……!」


意志を強く感じさせる声が虚空から発せられた瞬間、その虚空が揺らいだ。凝視すると、だんだん人型があらわになっていく。俺はその人物に驚いた。嘘だろ?お前は……。それは全く予想のしていなかった人物。つい先程別れたばかりの男。


「笹森ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


「すまないね。こんな形で再会してしまうとは………。出来れば姿を見せる前に決着をつけたかったんだよ。だけど君を消すにはこれしかないんだ!」


先程まで仲良くバイトをやっていた笹森。慎士以外にできたまともな男友達である笹森。またどこかで、と別れを言った笹森。そんな彼が姿を現し、襲撃者と発覚する。この時が彼が敵になった瞬間だ。俺は驚愕した。だが今はそんな暇はない。目の前にいるこいつは敵なのだ。


笹森は腰にあるケースからカードを1枚取り出し、高らかに叫ぶ。


「[覚醒]!!!」


指に持っていたカードが砕かれ、笹森自身に、目に見えるほどの白のオーラが砕かれて光の結晶と化したカードから注ぎ込まれる。

そして何ごとも無かったかのような元の姿に戻る。ただ、先程と違うことがある。


(殺気を感じとることが出来ない………)


「[覚醒]っていうのはこういうものなんだね。本当に使うとカードを失うのか……。でもいいや。龍。君を倒してそのカード、頂くよ」


「はん!面白い冗談だぜ![覚醒]とやらがどんだけの力があるか試させてもらおうか!」


「僕の初キルは君に捧げるよ。友達だった君を殺すことで僕は1つ強くなることができるんじゃないかな」


そう言った笹森の姿が再び虚空へと消えていく。消えた場所へ走って行くが、もう位置を掴めなくなってしまった。


感じとれない殺気を全力で拾おうとする。だが、


――――――ズサッ


「ぐあっ!」


衝撃を受けたかと思うと、何もないのに腹のあたりに刺傷ができ、血が漏れでてしまっている。そう。何もないのだ。今まではナイフを受ける際は必ずその姿を現していた。どういうことなのか?


「僕のカード[不可視の殺戮インヴィジブル]は元々、触れていた道具及び自分の姿を透明にすることが出来る異能力だ。常に武器を持っておけば透明のままで見えぬ攻撃ができるんだ。ただ、接近戦はあまりしたくないかな」


地面を蹴る音がなる。見えぬナイフ。どこに攻撃がくるか分からない。致命傷となりえる首と心臓部分には気を配っておく必要がありそうだ。だが俺からは何もできない。ただ、ナイフをできるかぎり避けるのだ。


―――――――ザッザッ


「ぐぅぅぅぅ!ああ…………。クソが!この野郎!痛てぇじゃねぇかおい!」


今度は2つの箇所。左肩と腹の右あたりに刺傷ができていた。感じた感じは、今度は切り裂かれたというより飛ばされたものが突き刺さった傷口だ。だがそれではやつの異能力が矛盾してしまう。


「おい!お前の異能力は触れているものが対象なんだろ!?おかしいじゃねぇか、これは明らかに投擲によりついた傷。それに傷口を触ってみると何かがまだ刺さっているんだよ。もうお前の手を離れたなら姿を見せるはずだ!」


笹森の説明と全く違う出来事がおき、俺は混乱する。落ち着いてナイフの柄の部分を感触で探し、見つけたら抜く。それは自ら傷口を抉る行為だが仕方がない。抜いた瞬間、激痛がはしるが、そんなことは気にしていられない。次の攻撃がくるだろう。


「自身の異能力の限界をこえ、ルールを無視できるのが[覚醒]というギミックじゃないかな。[覚醒]により、僕は姿ではなくというものになったんだ。つまりそれは君からすれば僕はいないものとして感じられるということ。殺気も感じとれないだろ?さらに触れていないものまで透明にできるナイスなオマケ付きだ」


そこで笹森の声は途切れた。とんでもないことを聞いてしまったな。存在を把握することが出来ないとな。殺気を感じとることが出来ないのはそのせいか。血と汗を流しながらこの文字通り、見えぬ襲撃者への対策を考える。


(正直俺1人じゃ無理だ…。ただ、存在を無くしたと言っても実体はあるんだろうな。でなきゃ物を掴むことなんて出来ないし。カウンターもあいつがナイフを持つ限り近づいてこねぇから狙えねぇしよぉ。やっぱり打つ手なしだ…………)


俺の焦りと緊張。汗が1滴地面へと落ちる。立ち止まっていてもまとでしかない。なんとか避けきるために辺りを走る。


――――ザッザッザッ


俺が走る後ろの木に何かが刺さる音。今度は3本飛ばしかよ!どうしてやつは大量のナイフを持っているんだ!疑問が浮かぶが考える暇を彼は与えてくれない。俺は普通に走るのではなく時々変則的な動きにしているのだが、ナイフを飛ばされるたびに少しずつだが動きや位置を調整されている。ここまで何本も飛んできて、完璧に避けきることは出来なかった。


「もう君の速度や動き方は完璧に把握した。次の攻撃できめるから」


もう走る気力すら無くなってきた。俯き、地面を見渡す。


「あ………………」


ふとしたことで気づいてしまった。俺はその瞬間、疑問を解決することが出来た。


「クソ!ああ、もっと早く気づくことができたらっ!!」


[覚醒]前に放たれたナイフは姿を現している。[覚醒]の恩恵を受けることができるのは[覚醒]発動後の物のみのようだ。ただ、[覚醒]前に放たれたナイフが地面に刺さっている本数があきらかに少なすぎる。そして、攻撃の度に数秒の空き時間があったのだ。


「本当に初歩的なことだったな。こんなことを考えられなかったとはよぉ」


「ふーん、何が分かったの。なら教えてくれないかな」


「答えを言おう。お前はナイフを20本、30本も持っているわけじゃねぇ!使。だろ?」


「……………………………」


笹森は無言になる。俺は構わず続ける。


「この地面に刺さっているナイフ。そして何かが刺さっていると思われる窪み。んで、この窪みが重要だ。試しに足元にある窪みを蹴ってみようか」


足を振り、


――――――――――スカッ


空気を蹴った。これから分かることは、


「透明で見えないだけかと思ったがこうやって試して分かった。……………お前はナイフを毎回回収している。窪みはそのまま残していたからだ。そして攻撃までのタイムラグは回収の時間。これでどうだ?」


「………………………………………」


笹森はまだ黙ったままだ。そう思っていたが、


「ハハハハハハハハハハ!!よく分かったね。今日までただの脳筋プレイヤーかと思ってたけど案外考えるんだね」


「失礼だな。俺は戦いだけならなかなか頭は回るんだぜ?」


「そうなんだね。ま、このネタが分かったところで無駄だけどね」


冷静に放つ笹森。身体で危険を感じ、すぐその場から動き出そうとするが、離れる手前で飛ばされたナイフが服ごと木に突き刺さり、動くことが出来なくなってしまった。


「残念だったね。すまないけど、君はここでアウトだよ。バイバイ、龍」


声が近づいてくる。見えなくても分かっている。今笹森はナイフを俺に振り下ろそうとしている。


(ここで終わりなのかね。はあ、すまねぇなみんな)


諦めるのは性にあわないが、こればかりはどうにもならない。心の中でお経を唱え始める。その時だ。


―――――――――――――ゴォォォォー


俺の前で強風が吹いた。それは渦巻く形で吹いているようで、辺りに砂嵐を生み出していた。


「おう。遅いじゃねぇか。待ちくたびれてこんなボロボロになっちまったぜ」


「彼が確実に動くであろう場所を特定するのに少しかかってね。それで、あなたがそんな姿を見せるなんて珍しいことね。少し笑えるわ」


俺が諦めていた時、助けてくれた彼女。彼女こそが俺が笹森に勝つためのキー。そして、頼りになる仲間ってやつだな。


「笑うな。でもま、助かったぜ。優梨」


彼女、優梨はこちらを1度見て笑い、砂嵐により、不自然に空中に積もりに積もった砂を見て言う。


「すまないけどあなたの対策はもともと考えてあったの。砂嵐で積もらせて炙り出すっていうものがね。―――もうこれで姿は隠すことは出来ない。仮に落とそうとしてもわたしの風ならすぐに積もらせられる」


「くぅぅゥぅゥぅゥぅゥ!!」


笹森が唸り声をあげる。残念ながら透明化は封じた。もうただの人間だ。


「さて、決着をつけようか」


戦いを終わらせるべく、俺は笹森へと近づく。負けずにナイフを飛ばしてくる笹森だが、腕の捻り方で簡単に飛ばす方向が分かってしまう。避けきることは容易だ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「今までのお返しだぁぁぁぁ!!たんまりと受け取れぇぇぇぇ!!!」


俺は炎を纏った拳を笹森の心臓部分に思いっきりぶち込む。


「ゴォ!!」


直撃した笹森は体内の器官にダメージを受け、口から血を吐きながら後ろへと倒れていく。倒れた彼はもう腕を動かすこともない。


「…………しゃ。……よっしゃあ!勝った。勝ったぞぉぉぉぉぉぉ!!」


俺は喉から出るだけの声を出して叫ぶ。戦いの勝者………荒井 龍!笹森との戦いはこれにて幕を閉じたのだった。

















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