第25話 襲撃者再来

「最近、俺達が見守っている2人がストーカー被害を受けているらしい」


「それ、多分俺達な」


「テンプレな返しをしないでくれ。もっと面白い回答を待っていたのだが」


慎士が少し呆れた顔をする。


「そんなことは知らん。今日はバイト最後の日だ。気を引き締めていけ」


「そうだな。もしやつらが襲撃してくるとしたら今日だろう」


「ああ」


やつらとはバイト初日で俺達を襲ってきた謎のプレイヤーのことだ。それぞれが場面を乗り切ったがいつまた襲われるか分からない状況だった。だが今日まで再び襲ってくることはなかった。


「だが安心しろ。対策は考えてある。バイト前に作戦を話すからな」


「おう。だがまずは食事よ食事。腹が減ってはなんちゃらと言うからな」


いつも通りの朝を迎え、各自最後のバイトへ向かうのだった。


(てめぇの顔を拝んでやる。覚悟しておけ)




〖〗

「おはよう。今日でバイトは最後だね。気合い入れていこう」


「そうだな」


俺は笹森との朝の会話を交わす。こいつを見るのは今日を過ぎたら戦いが始まるときだろうな。この1週間仲良くやってきたこともあり少し寂しい気分にはなる。だがそれもまた定められた運命。残された時間を楽しもうか。


適当な会話後、俺達は森へと向かう。バイト最終日なだけあり、初日に来た時よりも木は減っており、木くずや丸太が多く落ちていた。


「オラァ!!」


手にした斧で木を打つ。もう慣れたこの感覚。木に響く音。今ではなかなか心地よいと感じている。最初のころはうまく斬ることが出来なかったりすぐ筋肉痛に繋がったりして大変だった。


(ああ、なんかバイトの日々を思い出すなぁ)


周りのみんなも気合いが今までと違う。笹森だけではない。ここにいるみんなでこのバイトを頑張って来たのだ。これは多分半生くらい、記憶というアルバムに残るだろう。


(さて、最後までやりきるとするか)


――――――――――――――――――

<同時刻にて>


「今日で君ともお別れか……。寂しいよ」


「慎士………大丈夫だ。俺達は心で繋がっているさ。また会える」


「ああ。その時はお互い敵同士かもしれないけどな。………寂しがってても仕方ないね。今日の最後まで頼むよ」


「うん」


「さて、始めようか」


そして俺達は最後のバイトを始めるのだった。今では最初雑草だらけでボコボコな土地であったが今ではかなり整えられたいい感じの場所になったと思う。3日目あたりからはひたすら余分な土や泥を運んだりしていたかな。そいつらは見た目の割に重いんだよね。


周りのみんなの進める手が速い。最初は全員がうまく作業をすることは出来なかった。トンボで整えるのも意外とコツがいるし、泥運びはバランスが取りにくい。だが今ではスラスラとこなすことが出来ている。成長ってやつだな。


(もうバイトは終わりだけど結構楽しかったよ。このバイトを選んで正解だったかもね)


そう思える。


(さて、最後までやりきらせてもらうかな)


しばらくして、お昼になる。班長から終わりの合図が聞こえてくる。


「終わるぞー、集まってくれー」


全員が班長の前へと走り出す。


「みんな、今日までお疲れ様!お前たちはこの1週間よく頑張ってくれた!この後、それぞれの班を集めて〔ハッピーホーム〕へ向かう。続きの話はそれからだ」


こうして俺達のバイトは幕を閉じるのであった。




〖〗

「よし、みんないるようだ。それでは、今からこの1週間分の給料を渡すからな。1班のやつから来てくれ」


〔ハッピーホーム〕に着くと、バイトについての説明があった部屋へ向かうことになった。班長の待っていてくれ。という言葉の後、30分くらい待っていると2、3班の人達が来る。彼らも無事バイトを終了することが出来たみたいだ。龍もいる。


「お疲れ様!これからも頑張ってな!」


「ありがとうございました」


次々と給料を受け取っていく。俺の番もすぐに来た。少し封筒の中身を見てみる。


(3万円!大学生の月収がだいたい5、6万円と聞いている。1週間でこれとは。なんて太っ腹なバイトなんだ!)


ん?まだ何か入っているようだ。


(これは……!焼肉食べ放題の無料券!親方!あなたという人は(感動)………。龍ももらってるのかな。2人で焼肉行きたいねぇ)


素晴らしすぎる。これはただのバイトではない。ここまでくるとこのバイト先、〔ハッピーホーム〕は神の聖域サンクチュアリ(このサンクチュアリって響きがすげぇかっこいい)なのではないかと思えてくる。


「焼肉は俺からの奢りだ!みんな食べてこい!この1週間ずっと見てたけどお前ら、本当に成長していたぞ。最初は斧の振り方も分からなかったのにな………。少し感動しちまったっ!」


班長から少し涙が見える。この人、こういう場面に弱いのかな?意外な一面だ。


「じゃあ、またどこかでな!!」


「「「ありがとうございました!!!」」」


班長が部屋から出ていく。俺もなんかよくわからないけど感動してきた。たった1週間なのに……。んじゃ、俺達も行くか。早く焼肉食べたいねぇ。


龍を呼び、共に〔ハッピーホーム〕を後にするのであった。将来こういうところで働きたいと思った俺であった。




〖〗

(ああ、あいつともお別れか……。次会う時はお互い生き残っているといいな)


あいつとは笹森のことである。彼とは慎士が呼ばれる前に最後の会話をした。


――――――――――――――――――

「笹森、今日までサンキューな」


「うん。こっちも助かってたよ。ありがとう。またどこかで会おうね。バイバイ」


「ああ」


笹森は手を振りながら部屋から立ち去っていった。 やはり少し寂しさは残ってしまった。俺はその時気づかなかった。手を振ったその時、。そして、ことに――――――。


――――――――――――――――――

「んじゃ、慎士。行くか」


「ああ。焼肉も食いたいしな」


「いや、焼肉は夜が定番だろ。食うなら夜にしようぜ?女子2人も誘ってさ。あ、当然2人は自腹だけどな」


「奢ってやれよ。そんなことより、龍が自ら提案を持ち出すとは……。お前はこのバイトで少し変わったか?」


どうなんだろうな。ただ、知らないやつとも関わって協力をして共に頑張ってきたのだ。自分が気づかなかったとしても他の人の目からは変わったように見えるのかもしれない。


「俺は俺だ。変わったとか以前にここにいるのが現在の俺なのよ」


「名言獲得」


「獲得してどうするんだよ」


家へ一度向かうことにする。とりあえず夜に焼肉というのは確定した。それまでは家で休んでいることにする。汗も少し落としたい。


家のある森の中へ足を踏み入れる。その時、身体が寒気を感じた。霧が森の中を覆い始める。そして、あの時に感じた殺気も背中に刺さっている。あの時と全く同じ状況。


「おい、龍」


「ああ、分かっている。やつらがいる。しかも2人揃ってだ。協力プレイかは知らんが狙っているのは確かなようだ。殺り合うならここで潰す!」


「俺は氷使いの方を相手しよう。前回の続きだ」


「俺も再戦希望だ。野郎の顔を拝むんだ」


「作戦通りに行くぞ。じゃあ、」


慎士は[幻想の書]を取り出し、俺は炎を纏う。さて、やるとするか。肩を1度回す。


「「散!!」」


こうして再び襲撃者との戦いが始まる。












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