第18話 合否発表

「ああ、今日もいい天気だ。………今回はさすがに倒壊の音は無かったか。いや、今回もクソもなくあってはならないんだけどな」


心の底では今日も女子組の家が倒壊するんじゃないかと思っていた。


昨日は字の跳ね足らずだった。今回は慎士には1回書く度に正しく書けているか確認してもらった。でなければ女子達からの恨みがどんどんと集まってしまうだろう。


今その慎士は熟睡している。昨日の面接で疲れたのだろうか。だが起こさなければならない。今日は面接の合否が判明するのだ。見に行かなければならない。俺は慎士の肩を揺らしてみる。


「おーい。起きろや慎士。今日は面接の合否発表だぞー」


「あ~、友結君……優梨君………。め…メイド服を拝ませ…てくれ…」


こいつ、寝言が酷すぎる。そこまで見たいのかよ!だが諦めろ。てめぇは面接に受かった瞬間に夢が消しさるのだ!


慎士はメイド服見たさにわざわざ異能力を使い自分の腕を折り、仕事なぞしないとか言いやがるレベルのサイコ野郎だ。俺はその時かなり戦慄したよ。


まさかクラスの委員長をしている優等生の慎士君がこんなことを夢見ているなんてな。 人は見かけによらないということだ。

まあ、いいやつだとは分かっているんだがな。


ある程度肩を揺らしてみたが起きる気配がない。今度は顔をペチペチと強く叩いてみた。


「や…やめてくれ…。俺を見捨てるな!

ビンタしないで!離れるなぁ!俺のメイド服がああああああああぁぁぁ!!!」


この反応だ。慎士が寝ながら涙を流している。俺はこの現象に耐えきれなくなってしまった。


「ふーふー(笑)。傑作すぎるぜェ

これはよぉ!ハハハハッ!腹痛てぇ!」


どうやら俺のビンタが夢の人物とリンクしていたらしい。 俺がそのまま爆笑していると慎士が再び発狂しながら起きる。辺りを見渡す慎士。何かを察したらしい。


「夢かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


「おうおう、慎士元気か?見捨てるな!

俺のメイド服がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

だっけか?ハハハハ。お前のその姿がお笑いだったぜ(パラ○ス感)」


顔面を赤くして発狂をする慎士。もうこれは黒歴史として俺が永遠に頭の中に残しておいてやるよ。だが少しすると何故かほっとした顔になる慎士。あ?


「夢で良かった………。まだ現実は残っている!!希望は捨てない!」


「バカ言ってんじゃねぇ。バイトに受かった瞬間てめぇは破滅だ」


ほっとした顔からまた絶望の顔に戻りやがった。表情がころころ変わるやつだなぁ。

いつもは冷静でこんなこと無かったのに自分のことになるとここまで熱くなってしまうのか。


「大丈夫だ慎士。今は無理でもいつか夢は叶う。時が悪かっただけだ。さあ、先へと進もうか(爽やか)」


手を差し出す。すると慎士は感動の目で俺を見てくる。んだよこいつは………。


「ありがとう。俺は進む!2人は起きているはずだ。行くぞ!」


4人で集まって食事(また果実)をしてからそれぞれのペアに分かれて合否結果を確認しに行くこととなった。







〖〗

俺達は〔ハッピーホーム〕の入口にいた。

俺達の他に面接を受けたやつらももちろんいた。笑みを浮かべて飛び跳ねている者。

涙を流して地面に膝をついている者。自分がどちらになるかは分からない。待っていると段々と人が減っていく。目の前にある板を覗いてみる。高校受験と同じように張り出される感じだ。


(さて、自分の番号はあるかな…………)


「おっしゃあ!受かった!………だがなんだろう。少し悲しいかな。夢が遠のいてしまった。だがこれが現実である。俺はこのバイトを頑張って日々の生活を変える!」


慎士は受かったみたいだ。


「おっ、あったぜ。慎士よ。一緒に頑張るか」


「おう。……2人バイト出来るとなると結構儲けが出てくる。少なくとも今の果実地獄を抜け出すことが出来るだろう」


「そりゃあ助かるぜ。別に果実自体は嫌いじゃないがこう毎日食わされると飽きてくるんでな」


「俺も飽きてきた。給料を貰ったら美味い飯でも食いに行くか」


「あたぼーよ。肉が食いてぇ。てかリアルの方でもまともな飯食ってきてなかったから恋しいぜ」


「肉か……店を探しておくか。合格者はこの後面接を受けた場所にて説明会があるとのことだ。行くか」


俺は頷き、慎士と共に〔ハッピーホーム〕へと入って行くのである。

合格出来たという幸せを心にしまって。






〖〗

わたし達2人はバイト予定地である喫茶店の

〔Love and peace〕へと来ている。合否はおそらく事務室で伝えられると思う。とりあえず来てとしか言われていないから分からないんだよね。

いざ、入店。昨日と同じ匂いが店の中に漂っている。


「いらっしゃいませー。……あ、面接受けた子たちね。もし来たら事務室に連れてくるよう言われているんだ。じゃあ、行こうか」


わたし達は事務室の中へと入る。

当然皿井さんの姿もあった。

ただソファーの上で居眠りしていたが。この人本当にマイペースというか緊張感が無いというか。他の人はしっかり働いているのにね………。


「てんちょー。2人が来ましたよ。起きてください」


「ん……あー、分かったよ」


店長が目を擦りながらソファーから身体を起こす。


「あー、来てくれてありがとうね。んでー合否発表だけどー」


ゴクリ。

喉を鳴らす。さあ、どちらだ!


「2人ともいいよー合格。んじゃ、頑張ってねー」


「「よろしくお願いいたします」」


「てか、昨日君達を見た時点で採用は確定してたんだよね」


!?


「だって2人共可愛いし、その方がお客さんも増えるからさー。妙な心配しちゃった?」


今までの緊張を無に還すような言葉。


「はあ」


優梨がため息をつく。仕方ないね。店長……こんなノリで採用をしてしまうとは…。

そりゃあため息も出ちゃうでしょ。


「何であろうと採用されたからOKじゃん。ほら、バイトのスケジュールとルール。この通りによろしくね」


店長が紙を私達に手渡す。色々書いてあると思ったけど凄い大雑把おおざっぱだ。

時間と小学生レベルのルールがあるだけ。

てかこれ印刷してやつじゃなくて手書きした物をそのまま渡しただけ………。


「分かりました。では今度はバイトで」


「じゃあねー」


私達は店を出る。

はぁ。

今度は優梨だけでなくわたしもため息をつく。


「嘘でしょ……こんな適当に……」


「……店長……今までもこんな感じで受け入れてきたのかな…」


「まあ、いいわ。働けるのならいいの。店長も採用されたならOKとか言っていたし」


「やっぱり気にしたら負けかな」


「これで今日のするべき事は終わったけどどうする?帰る?」


「いや、少し街を回らない?給料を貰ってから料理の美味しい店に行きたいからさ。先に偵察ってことで」


「同感ね。もう果実は飽きてきたの。そろそろ肉や野菜が普通に食べたいわ」


「じゃあ、今日の残り時間は料理が美味しそうな店探しで!」


店を離れて街を歩くことにした。





〖〗

「ここはどう?〔スタミナ三郎〕。この店は色々なジャンルの料理があるみたい。だからあの2人も合うと思うんだけど」


「そうね。なんとなくだけど龍は肉食で慎士は草食のイメージだからいいんじゃない?分かれる必要がなくなるから。わたしは色々な物を口にしてみたいし」


この〔スタミナ三郎〕には色々な料理があり、肉、寿司、サラダなどが主なものになる。わたしはどこかで似た名前の店をリアルで見たことがある気がする……。


「候補に入れておこうかな。じゃあ、次行こう」


〔スタミナ三郎〕を後にして再び店探しへと向かった。





〖〗

「おう、俺がこれからしばらく君達の班長になる黒田くろだというもんだ。みんなよろしくな」


俺達は今合格者説明会にいる。

たった今始まった。周りには約15人。こいつらが面接に受かった者達だ。30代くらいの人もいれば10代に見えるやつもいる。

ん?

俺は10代くらいのやつの1人を見る。

そいつは制服でをしている。そして腰には何かのケース。


(こいつはまさかプレイヤーか?……おそらくそうだろうな。ここでドンパチやるわけにはいかないし様子見か)


俺は隣の慎士に目配せくる。

すると慎士は気づいたようにウィンクをしてくる。

でも今は説明会の途中。しっかりと班長の話を聞かねば。

班長の自己紹介が終わると共に班長の坊主頭が光る。


「君達には力仕事を頑張ってもらうぞ。とりあえずどんな事をするのか把握するために紙を渡すから目を通しておいてくれ」


前の人から順に手渡される。

紙を受け取った俺は内容を確認する。


(土運びに整地。材木の確保…………その他もろもろか。やはり建築関係。力仕事か)


「んじゃ、あとは適当にそのメンツで顔合わせしといてくれや。日程も紙にあるから頼んだぜ」


班長は部屋から出て行った。

日程の部分を確認すると早速明日からバイトだ。しかも朝の7:00から。これは早起きしなければ。

さて、いるメンツを見てみるか。

俺と慎士が席を立つ。その時、隣から声がかけられる。


(何やつ!)


「やあ、しばらくの間よろしく」


あのプレイヤー疑惑のある男だった。

まさかやつから来るとはな。

なんとなく爽やかなイメージが浮かぶ青年。

制服は俺達とは違う。他校のやつか……。


「ああ、よろしく頼むよ。んで、君の出身校はどこかな?」


慎士が応答する。


「まず自己紹介だね。僕は本越ほんごえ高校の沢木さわき 浩二こうじ。君達は?」


「俺は吉野ヶ丘高校の竹村 慎士。んで、こいつが」


「同じく荒井 龍だ。よろしくな」


俺は浩二に握手を求める。彼は握ってくれた。で少し冷たい。

彼はその時俺の目を見て言った。


よろしくね。

お互いに頑張ろうか」


浩二はその言葉を言って去っていった。


「慎士。やつはプレイヤーだ。高校だけでは完全にプレイヤーかは分からない。この世界にもあるかもしれないからだ。だが最後のあの言葉」


――――この世界にいる間よろしくね


「ああ、いずれ戦うことになるだろう。だがやつも生活に余裕はないだろう。だからバイトに来た。しばらくはやつの言う通りお互いに頑張るとしよう」


俺達も出ていく。

浩二。てめぇがどんなやつだろうが最後には俺達が倒させてもらうぜ。

さあ、明日から忙しくなる。

今日は早く帰って休むことにしよう。

















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