第17話 面接 女子編

「ここが会場ね…。普通のカフェ……じゃなくてメイド喫茶」


「慎士…。本当になめてんのかな?」


「はぁ…。でも仕方ないわね。行きましょうか」


店の看板には〔Love and peace〕とある。わたし達はバイト予定地の喫茶店〔Love and peace〕へと入っていった。


中はThe洋だ。照明が輝き、ハーブティーの匂いやケチャップの匂いが鼻に触れる。見渡すと何人かのメイドの格好をした店員が店を動き回っている。その中の1人がわたし達に声を掛けてきた。


「あなた達は?………もしかして今日面接に来たっていう2人?」


「はい。そうですけど………」


「ああ、話しは聞いているよ。じゃあ、こちらでね」


わたし達は事務室の方へと案内される。そこにはこの喫茶店の店長らしき女性が椅子に腰掛けていた。見た感じ30代ってところだ。


女性は座ってくれと手前のソファーを見てから手招きする。わたし達は言う通りに座った。ふかふかなソファー。慎士が異能力で具現化した物より断然いいね。あれはソファーというより石だった。少し感動していると女性が口を開いた。


「確認するよ。君達が面接を受けるという2人だね?」


「「はい」」


「あ~そんなにかしこまらなくてもいいからさ。もうちょっとゆったりしてよ。そんな厳しくするつもりなんて無いからさ」


「分かりました」


「同じく」


AIなのにこんなにも感情や意志を持っているんだ。それもあり、ここがゲームの世界である事を時々忘れそうになる。


「んじゃ、わたしから自己紹介させてもらうね。わたしはこの店の店長をやらせてもらっている〔皿井さらい〕という者だ。よろしく頼むよ」


「わたしは風祭 優梨です。よろしくお願いします」


「わたしは稲見 友結です。よろしくお願いします」


「OKOK。じゃあ、面接を始めるよ。と言ってもそんな重い物でもないし楽に答えてよ」


「「はい」」


店長がわたし達の返答を受けた瞬間に斜め上を見て何か言っている。


「う~ん。どうしようかなぁ。面白い方がいいよねぇ」


え……今質問を考えているの!?ちょっとこの人自由過ぎないかな?その状態が1分程続いてからようやくわたし達へと言葉が投げられる。


「1つ目ね~。君達は目玉焼きに何をつけるのかな?」


「「え…………」」


唖然した。何故バイトの面接でそんな質問が出てくるのか。これ学年レクとかじゃないんだけど…………。


「何ボサッとしてんの。もしかして何もつけない派?」


「いえ、そうじゃなくてですね……」


「ちょっと面接なのに変な質問だなって思いまして。普通バイトの志願理由とかじゃないんですか?」


わたし達の返答に店長がため息をつく。


「いや、そういうの面白くないじゃん。てかどんな理由でもさぁ働きたいって思ってくれたんなら何でもよくない?」


それでいいのかなぁ店長………。でも少し納得してしまった。働くのに意志さえあればいいということかな。その言葉に続けて、


「はい、もう1回聞くよ。君達は目玉焼きに何をつける?」


本当にそれでいくのね……。やはりこの店長は自由過ぎで不安だな…。こんな人の下で働くのも大変そうだ。でも楽しそうではある。


「わたしは塩コショウね。少し辛い感じがいいの」


優梨は塩コショウ派かぁ。この日本で目玉焼きにつける物といったら塩コショウの人が多い気はする。


「わたしは醤油。よく分からないけど小さい頃から目玉焼きにつけるのは醤油だったの。今でもそうかな」


「わたしはマヨネーズだ。マヨネーズは何につけても美味い。最初は目玉焼きにつけるのは微妙と思っていたが案外合うもんだ」


まさかのマヨネーズ。自分で試したことは無いけど確か同じ組の白井君がそうだった気がする。彼はマヨネーズの素晴らしさを布教してたから多分そうだろう。


「んじゃ次。飲んでいる水の種類は?」


今度は水の種類………。もう気にしたら負けな気がしてきた。優梨から答える。


「わたしはいろ○すよ。値段もいい感じだし近くの自動販売機に行けば簡単に買えるからね」


いろ○すか。最近色々な味が増えてきていると聞いているけどどうなんだろう。今度試しに飲んでみようかな。次はわたしの番だ。


「わたしは水道水なの。親がお金を節約するためにろ過するための機材を買ってきてそれを使っている。出来れば普通の水が飲みたいけどね……」


「水道水をバカにするなよ!あれは素晴らしい物だ。学生のころには冷水機でお世話になった。炎天下の中で部活動をやらされて水筒の中身が無くなったときにあいつはいつも助けてくれた。とても美味かったよ。まあ、たまには鉄の味に変わって反抗してきた日もあったがいいやつだったよ……」


水道水のありがたみを語られた。でも冷水機は何度もお世話になったかな。部活中にはみんな一斉に我先われさきへと駆け抜けてくるんだった。


ん?今この人部活をやっていたって言わなかった?もしかしてこの世界にも学校という物があるのかもしれない。いつか探してみようかな。


「はい次。実のところ………君達彼氏とかいる?候補とかでもいいからさ。教えてよ」


とんでもない質問をされてしまった。普通このタイミングでするような質問じゃない!

…………でもこの人なら平然とやりかねないなぁ……。


「「……………………………」」


2人揃そろって沈黙してしまった。


「君達可愛いからさぁ男の2人や3人くらい声かけられたんじゃない?わたしの代にはそんなに可愛い子いなかったんだよねぇ」


「いや、全く声はかけられていないわね。おそらく威圧を出していたからだと思うけど」


確かに。優梨ならこっち来るんじゃねェみたいな雰囲気だせそう。


「わたしも声をかけられたことは無いかな。おそらくあいつのせいだと思うけど…」


そう。あいつとは荒井 龍である。龍と絡んでいたからか男は誰1人と声をかけなかった。……なんか龍が用心棒みたいだなぁ。


そう思っていると店長の目が輝いた。その時自分が今してしまったミスに気付く。


って誰?もしかして気になっている子?どんな子なの?ちょっとわたしに教えてくれよぉ」


「いや、龍はそういう対象には思っていないから…………なんなんですかその嬉しそうな顔は……」


「龍ちゃんね。かっこいい名前じゃない。覚えておくわ。いやぁ。そう思っていても最後は考えちゃうんだよなぁ。どの漫画でも大抵そうだったからねぇ」


「…………………………」


「すまない。はい!次の質問だ」


まだこのノリで面接は続くようだ。







〖〗

「はい。これで面接は終わりねー。はあー楽しかったわぁ。んじゃ明日もこの時間に来てねー。合否伝えるから。2人とも気を付けて帰ってよー」


あの後質問は10個程続いた。どれもノリで考えたような物だったが。結局店長が楽しんだだけかもしれない。何はともあれ終わった。


わたし達は事務室からありがとうございましたの言葉とともに出る。そのまま龍と慎士の待ち合わせの場所へと向かう。


「あの人、本当に自由な感じだったね……」


「ええ……あのテンションで常に過ごしていると考えるととんでもない人だわ………」


「でも楽しそうだしさ。あそこならいいバイトが出来る気がする」


「お互い合格したら一緒に頑張りましょう」


今日のことを話しながら歩いているといつの間にか待ち合わせ場所に辿り着いていた。まだ2人は戻って来ていないらしい。空を見上げれば夕日が見える。もうそんな時間になってしまった。


(もうすぐ来るかな)


そう思っていたら数分後には2人が見えてくる。手を振ってみた。向こうもこちらに気づいたらしく、手を振り返してくる。2人も面接は大丈夫そうに感じられた。


(さて、みんな揃ったしさっさと帰って寝るかな…………)


こうして今日という日は終わりを迎えるのだった。


























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