第10話 VSかまいたち 後編
龍の拳と足を炎が包み、少女の回りを風が取り巻き、木の葉が舞う。
「くらいなさい!」
風が俺の方へと吹いてくる。
(そんなものじゃ倒せねぇぜ?たなびく方向さえ分かればそこまで脅威じゃねぇ!)
龍は全ての風の吹く範囲から抜ける。そうさせているのは龍の纏う炎。炎がたなびく方向によってどう吹くか判断している。現状、彼女は風を1方向しか出せないようだ。
「オラァァァァァァ!!」
俺は拳を振りかざす。手加減はしない。そう言ったからな。だが拳は届かない。
「なんだと!?砂で俺の拳を防いだ?」
「甘いよ!」
拳は彼女の前に風によって浮かされた多くの砂。それは龍の拳ほどの大きさになるよう風でうまく集められていた。そしてその砂が風に吹かれ、龍を襲う。
「くっ!目が、目に砂が入って見えねぇ!」
そこを見逃すわけがなく、風が龍を襲う。もう身体中から血が出ていて、服も破けている状態だ。だが龍は倒れない。目に入った砂を落とすために[海水]の異能力を使用。海水で砂を落とす。少し目には染みた。
「はぁ…はぁ…、……やってくれるじゃねぇか!!」
俺は立ち上がる。まだやれる。戦える。再び炎が燃え上がった。だが、俺はその時にふと考えたことがある。
(あの時、砂が俺の拳を防いだ…。だがたかが砂だ。1箇所に集めたとしても止めれるのか?しかも風で操ってだ)
さらに俺は疑問を上げていく。
(それに今までに受けた傷…どれも風による攻撃ではない…。そもそも風による攻撃なら風が吹いた後に攻撃を受けるのはおかしいだろうが)
自分の身体中には砂と木の葉ばかりが付いている。これで分かったかもしれない。
「お前、もしかして他に仲間がいるんじゃねぇか?」
少女の眉間が険しくなる。図星か?
「何故そう思う?」
「お前の異能力が風を操るものだとしよう。風が吹いた後に攻撃を受けるのは変だろ?だって風なら吹いた瞬間に俺を切っているからな。攻撃手段はこれだろ?俺についている砂や木の葉。これを風にのせて攻撃しているんだ。なら木の葉や砂を強化しているのは誰だ?明らかに木の葉や砂で受けるダメージじゃねぇ!」
「ふふふ、惜しいわね。答えは1人。攻撃手段は確かに砂と木の葉。だけどこれらは全てわたしの力なの」
こいつの言っていることが本当なら異能力を2つ持っていることになる。つまり、
「お前はすでに他のプレイヤーを殺っていたってことか。んでそいつのカードの力が両方の異能力のどれかってわけか」
「そういうこと。じゃあ、そろそろ終わりにしましょう?」
カード同士によるコンボ。うまく使うとこんなにもやべぇのか。だが、
「それは俺も同じだ。あと、感謝してるぜ。カードは兼用出来るってことを教えてくれて。見せてやるよ、俺のコンボ」
「なら是非見せてよ。こっちも負けないから」
風にのった木の葉や砂が襲ってくる。俺は右の手のひらにのみ炎を集める。右の手のひらには集まった炎が球体としてある。
(これが俺の必殺技!喰らえ!!)
「ファイアバーストぉぉぉぉ!!!」
集めた手のひらの炎を[空気砲]で押し出し、放つ技。名前はその場で考えた。俺の渾身の一撃は砂や木の葉を吹き飛ばし、少女の前へと迫る。その瞬間に俺は異能力を解除。炎も消えた。そして少女へと近づき、
「ゲームセットだ」
拳を少女の顔の前に突き出す。
「わたしの負けね…。なんで今ので殺さなかったの?これはゲームなんだから罪悪感とかはないでしょ?」
そうだな。これには理由がある。
「答えよう。単刀直入に言う。仲間になれ」
「え?」
「2度言わせるなよ。仲間になれって言ったのよ」
「何故なの?敵よ。生かす理由はないじゃない!」
あ~。めんどくせぇなあ。生きたくねぇのか?せっかく助けてやったのによぉ。
「あ~とな。キツいんだよ。この世界で少人数で生き残るの。だから出来るだけ仲間を作って、人数が減ったらまた戦うって感じ」
俺、慎士、友結。今仲間と呼べるのはこの3人。だが最後まで3人で生き残る自信が無かった。他にもチームとなる敵が出来ているはず。その事を考えてだ。
「仲間……ねぇ。裏切るかもしれないよ?」
「その時は俺が殺す。いや、それは駄目だな。俺は仲間を俺に殺させない。仲間なら間違いを正してやるんだ」
そう言った時、少女は安心してような顔をして、
「そう。いいよ。提案に乗ってあげる。……ありがとう」
「あ?」
そのありがとうの意味は龍には分からなかった。
〖〗
わたしは、家族3人で暮らしていました。母、父、わたしの3人です。ある日、父が母と一緒に旅行に行ってくるといい、家を出て行きました。
わたしは高校へ行くための勉強をしていたので、旅行にいく暇はありませんでした。家の留守番です。それから3日ほど経ちました。両親は3日後に帰ってくると言っていたのに。でも2週間後くらいに再会することが出来ました。……遺骨となった両親と。死因は旅行先で細道を通っていた際に強風にあおられ、2人共崖へと転落。そのまま亡くなったそうです。
わたしは泣き続けました。どうしてわたしを置いていってしまったのか。何故あの時ついていかなかったのか。後悔ばかりでした。その後は両親のおじに引き取られ、高校は近くの場所へ行くことにしました。両親はもういない。
かつて仲の良かった子は誰1人いない高校。そして誰ともまともに話すことなく過ごしていました。このゲームが始まるまでは。最初は興味などなく、適当に受け流そうとしていました。ですが、このゲームの話を聞くととても楽しそうだと感じました。もともと1人だった自分。新しい世界ならやっていけるのではないかと思ったのです。
同じクラスの子は全員バラバラに散ってしまい、仲間を作ることは出来ませんでした。でも他のクラス、学校の子ならいけるだろうと思いました。ゲームが本格的に始まってから数時間後、1人の女の子を見つけました。自分の知らない子でした。わたしは声をかけました。ですが返答は異能力。異能力によって強化された砂を飛ばされました。とても痛かったです。わたしはもう嫌だと思い、咄嗟に自分の異能力を使いました。皮肉にもわたしの異能力は[風]。両親の命を奪ったもの。わたしは風を操り、砂を飛ばしてやりました。強化された砂を直接受けた彼女は目を抑え、呻いていました。わたしは思いました。
――――この世界でも1人か
と。そう思うと吹っ切れて、次の瞬間には彼女の首を絞めていました。そして残ったのは彼女が持っていたカード。もういい、どうせ誰も助けてくれないんだ。わたしは近くの街へと向かうことにしました。生きようと思ったのは自殺で終わりたくなかったから。
例えゲームでも、死んだ両親に申し訳ない。出来るだけ他人にバレないように風で軽い砂嵐を起こしながら進みました。街に入ってからは今の通りです。偶然プレイヤー狩りをしていた男を見つけ、戦うことになりました。半分死ぬことも考えて。わたしは負けました。ここで死ぬのかと思いました。また向こうに戻るのかなと。
でも男は殺しませんでした。それどころか仲間になってくれと。素直にわたしは嬉しかった。受け入れてくれるのかと。
「ありがとう」
感謝の気持ちがつい出てしまった。
〖〗
何故助けたのか?ふん。この先がキツいというのは建前だ。本当は悲しそうだったからだ。嫌なんだよ。人生を楽しめてないやつ見ているの。
俺はこんなんだけど、慎士と友結に助けられてここまで来た。助けてもらった分。そして迷惑かけた分を取り戻さなければならない。まあ、今でも少し荒れてるがな。
俺はこのゲームで何人か殺してきたが、みんな普通にゲームを楽しもうとしているように見えた。でも彼女は違う。ゲームなのに楽しめていない。ゲームは楽しんでなんぼだからな。俺がこの世界も向こうの世界も楽しいって思い出させてやるよ。
「あ?…………まあ、よろしく頼むぜ」
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