第9話 VSかまいたち 前編

俺が名古屋城の入口へ向かおうとした時、生ぬるい風が吹き、木の葉が舞う。それと同時に、


「痛ぁ!あ?頬が切れたのか。普通にしていれば急に頬が切れるはずがない。切れた原因と考えられるのはこの風か。今日は風が無かったし、ここから見えるAIの家にかけてあるタオルもたなびいていない。とするとここだけ風があるのはおかしいだろ。なあ、いるんだろ?プレイヤー」


俺が周りを見渡し、俺がそばにプレイヤーがいるかのように話しかける。返答はまた急に吹く風。今度は腕に目掛けて。


「くっ!出てこいやぁ!タイマン張ろうじゃねぇか!」


俺は風を避けながら銃を捨て、[灼熱の闘志]を発動。拳と足が炎に包まれる。再び風が吹き、炎が揺れる。


(風が吹いてから切られるまでは時間がある。炎の揺れ方で判断しろ!)


炎は右側に揺れた。つまり左側からの攻撃ということ。俺はしゃがんで避け、そのまま最上階から飛び降りる。


「これで!」


龍の手のあたりから見えない何かが放出され、地面に叩きつけられる瞬間に少し浮き、着地。


(咄嗟に思いついたがやれば出来るもんだなぁ。[空気砲エアーバレル])


空気を手のひらまたは足の裏から押し出すという微妙な異能力だったがこうして活躍できた。しかも先程手に入れたばかりのカードだ。その場の機転をきかせる力は龍はかなり高いと思う。


(このまま逃げてもいいが放ってはおけない。2人に迷惑をかける。やつはおそらく俺達の包囲網をかいくぐって入ってきた。カードが風に関係しているのは分かるがどう侵入したかだ。まだ分からない。だがやつは結局は相手にしなければならない。くっ!風を操って切り裂くってまるでかまいたちじゃねぇか!)


俺は足から空気を使い大ジャンプ。民家の屋根の上をわたりわたりに走り、跳ぶ。街の中心で事件なんか起こしたくない。向こうは見えないからいいかもしれないがなぁ!







〖〗

街を回り、異能力者を探す。それも、風から逃げながらだ。風を完璧に避けることなどうまくは出来ない。当然腕や足、顔の至る所が切れており、出血がある。長びけばこちらの不利となる。


(どこだ!?どこにいる!?異能力が風の操作なら遠距離からは操れないだろうから遠くにはいないはずだ!少なくとも俺を視認できる場所に!)


俺は家の屋根を飛び越え、名古屋城付近にまで戻って来ていた。だがここまで不審なやつはいなかった。


(最初から考えろ。まず俺が最初に襲われたのは名古屋城の最上階。その時点では名古屋城さえ見ていれば俺のことは分かる。この異能力は相手を見て、そこへ風を送り込むことで使えていると考える。でなければあんなに上手く風は送れない……。俺にバレない程の遠い場所から見ていたとすれば相当視力がいいか、それともすでに近くにいて気づかない俺を笑っていたか。俺は家の屋根を跳んでいた。それに一周する形で回ったんだ。それなら近づかないといけない。近くにいたと仮定して、さらにこの街の全方位を見渡せる場所…………………名古屋城ぐらいじゃないか。名古屋城だとするとどこだ?まず俺は最上階にいた。下の階から覗くのは無理だから消去だ。なら最上階か?俺が狙撃している最中に迫っていた?いや、それもないな。なぜなら俺は風を受けた時に辺りを全方位見たからだ。あとは………あそこしかない!いるかは分からんがこれで決まるなら…………!)








〖〗

「よぉ。元気か?会いたかったぜ、かまいたちさんよお。これだけボロボロにしてくれたんだ。お礼くらいさせろよ」


俺は炎を纏った拳を構える。


「かまいたちねぇ。いいあだ名ね。で、どうしてここって分かったの?近くにいると絞れてもここに来るなんてね」


かまいたちもとい少女が振り向く。顔は凛々しく、全体的に身長は高い。そして洗練された黒色の伸びた髪。彼女の黒髪が風にのり、たなびく。俺は答えてやった。


「消去法だ。まず同じ階はありえない。俺が風が吹いてから見渡しているからだ。下の階もないな。それなら最初に襲撃できない。ハハッ、いつから最上階が俺のいた場所だと勘違いしていた?まだ上、シャチホコがあるだろう。そこからなら街を一望出来るし、最初も上から見下ろしてたってことで納得だ。だが分からんかったことがある。どうやって俺達の包囲網をくぐった?」


「あなた、バカそうなのによくそこまで頭が回ったわね。正確には見下ろしてたんじゃなくて覗いていたの方が正しいわ。普通に見下ろそうとすれば屋根で見えないから。かいくぐった方法は風で砂嵐をおこして身を隠したってところね。こんなこと知ったって今更だけど。…………ここじゃ戦いにくいから広い場所に行きましょう」


「バカとは失礼だな。まあ、否定はしないが。意見には納得だ。落ちたら困るだろ?」


俺達はお互いを警戒しつつ名古屋城を出て、森のひらけた部分へ行った。


「それじゃ、やりましょう」


「ああ、女だからって手加減はしねぇ」


龍の拳と足を炎が包み、少女の回りを風が取り巻き、木の葉が舞った。こうして、かまいたちと呼ばれた少女との戦いが始まる。


























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