1話 基準
「おはよう!あ・お・い・ちゃ・ん!」
「だからちゃん付けで呼ぶなって。俺は男だ」
中学2年生の黒瀬 葵は、今日も朝一から友達の流川 湊人に「女みたい」と思われる名前でいじられている。
別に、嫌ではない。この名前が嫌いなわけではないし、確かに女子にもいるのは事実だから。
昼休み、仲のいい数人組で昼ごはんを食べているとその中にいる1人の芦間 広斗が、
「き・今日は、な・何時からあ・遊ぶ?」
「おい!お前それ俺の真似だろ?今はほとんど起こらなくなってんだから真似すんなよ」
「ぶー。分かったよ。」
俺は昔からあがり症で、今はほとんど克服出来たが、昔は先生に当てられて発表するときなどに毎回噛んでしまって、今でもよくその過去を知ってる友達から真似をされていじられる。
別に、嫌ではない。ほとんど治せたし、やめろと言えばすぐにやめるから。
体育の授業前、更衣室で着替えていると、ヤンチャめな友人の井坂 颯が急に笑いを含めた声で、
「なあ葵、お前今日も天津のことずっと見てただろ?好きだもんなー」
「別に見てないよ。もう好きじゃないし。ってか大きい声でそんなこと…」
「昔のことなんだし良いだろ?ほらみんなもせーの、あーまーつ、あーまーつ…」
その掛け声に伴い、みんなも俺がいじられキャラなことを理由に一緒に名前をコールする。俺は少し苦笑う表情をしながらでやめるように声を上げる。
嫌なのだ。何度言っても一向にやめようとせずに、日が変わればまた同じようにする。仮に今は好きじゃなかったとしても。
この“いじり”が“いじりではなくなる”
ラインが俺には痛いほど分かるのに、みんなは分かっているのか。分かってるならこんなことし続けないよな…。じゃあわかっているけど見て見ぬふりをしているのか。そんなことを考えながら、未だ続いているコールをやめるように再び声を上げる。
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