第29話
「ひっぐ……ぐす……えぐ………………うう……うあああん……うう………………うううう…………」
資料室の片隅、積み重なったダンボール箱の間にできた狭い空間に森園美月は膝を抱えて蹲り、泣いていた。
「終わった…………うあああん! お、終わった……聞かれた…………全部聞かれたあ……うえええええん!!!」
僕は耳を抑え、声を上げる。
「うるさいぞ! 泣くのをやめろ。落ちつけ」
「う、うるさいうるさい。あんたに何がわかるのよ。終わった……人生終わった! もう全部おしまいよ! うあああああん!」
「何も終わってはいない。だいたい、まだ聞かれたと決まったわけでもないだろ」
「そんなわけないでしょ! ずっと聞いてたのよ。入り口のところで。ばかばかあたしのばかー! なんでちゃんと確認しておかないのよ! お、おかげでおしまいよ! お、荻原さんに……荻原芳子に、あ、あたしの気持ち……全部………………」
ひとしきり叫ぶと、森園は急に静かになった。膝に額を預けたまま、死んだように黙る。僕はため息を吐くと、額を指で抑えながら言った。
「森園……つまりお前は……荻原のことが」
「か、勘違いしないで」
顔をあげないまま、もごもごと顎だけを動かして森園は言う。
「別に本気で、あの子にそういう気があるとか、じゃなくて……ただ、その、ずっと憧れてたのよ。彼女に……」
「憧れていた? なぜ、お前があんなちんちくりんに」
「小さくて何が悪いのよ! かわいいじゃない小さいほうが!」
「あ、ああ」
急に顔を上げて睨みつけてくるものだから、つい僕も頷いてしまった。けどすぐに森園はまた膝を抱え、顔を覆い隠す。
「……」
そしてそのまま、また無言になる。
「……だんまりか」
肩をすくめ、僕は、資料室の奥から古びたパイプ椅子を引っ張ってくると、森園の前に座った。ダンボール箱の間に挟まったそいつを見下ろす。
……本来なら、僕にはこいつに付き合う理由はない。去っていった荻原の方を追いかけるべきだろう。だが、大泣きしていた森園を放り出していくのは流石に寝覚めが悪かったし、それに、こいつの話を聞かなければ、荻原に何と説明してやればいいのかもわからなかった。
長期戦を覚悟で、僕は足を組むと言った。
「話せ。慰めはしないがここにいてはやる。聞いてやるから光栄に思え」
「………………」
しばらく黙り込んでいた森園だったが、僕が見下ろし続けていると、
「……………………あたし」
顔を上げないまま、ぽつりぽつりと話し始めた。
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