女の子に警戒される

「欲しいならあげる。だけど、僕も腹が減ってるから、半分ならあげるよ。」

と、魚を半分に手でちぎり、頭側半分を近くの岩の上に置いて、10歩ほど離れる。


だが、女の子は僕を睨みつけるだけで、動こうとしない。


そこから5分が経過したところで、女の子の目線が僕と焼き魚を交互にチラチラと動くようになり、女の子はゆっくりと一歩を踏み出した。


一歩、一歩こちらを警戒しながら、ゆっくりゆっくりすり足で焼き魚に近づいていく。


その間、僕はだんだんと魚を持ちあげている手がしんどくなり、逆の手に持ち変えようとすると、女の子はビクッと動きを一瞬止め、後ろに跳び、臨戦態勢をとった。


「ごめん、怖がらないでも大丈夫だよ。」

とは、言ったものの女の子の臨戦態勢は緩まない。


でも、お腹は空いているのか。チラチラと焼き魚には目線をおくる。


どうやら僕は女の子が魚を取るまでは一切動けないようだ。


そこから、またゆっくりゆっくりと焼き魚までたどり着いた女の子は焼き魚を手にした瞬間、全力で後ろへ下がり、草薮へと姿を消した。


緊張が解け、なんだったんだ?と呟き、冷めた焼き魚を頬張った。


—————


翌日、昨日のことが頭に浮かび、高台で叫ぶ気分ではなかったため、布団の中でずっと考えていた。


そんなことを考えていると、ゆっくりとした足音がだんだん近づいてきていることに気づいた。その足音は家の扉の前で止まり、


「アキ、どうしたの?風邪でも引いた?」


どうやら、心配した近所のおばちゃんがわざわざ家まで、声をかけにきてくれたようだ。


「村のみんなも心配してるよ。彼女ができてないのに、今日は高台で叫ばなかったって。」


すごく変な心配のされ方だな。と心で呟き、おばさんに嘘をつく。


「僕、実は彼女が出来たんだ。」


「そんなことある訳ないだろう。寝言は寝てからいいな。」


と言葉を残し、きた時よりも軽やかな足音で去っていった。


何故だか分からないけど、枕が濡れた。


——————


頭に浮かぶのはあの獣人の女の子のこと。


『家に何があったっけ?』と布団から起きて、部屋の端っこにある台所へと向かい、食べ物がないか探す。


台所にあったのは、にんじん3本とサツマイモ1個だけだった。


『また買い物に行かないと』と考えながら、にんじん1本とサツマイモ1個を取り出し、乾いた木と火打ち石の入ったバケツの中に入れ、釣竿を持ち、準備を整えた。


わらぐつを履いて、立て付けの悪い引き戸を開け、昨日の場所を目指す。


森の入り口には昨日、僕が通った跡ができていて、1人が通れる幅の道が作られていた。


昨日の通り、歩を進め、中腹に差し掛かったところで、辺りを見渡すと、目的の物を見つけた。


水分を多く含んだ大きな葉っぱだ。確か、ブエナの葉っぱっていう名前だったような?あまり料理に関心がないので、名前がうろ覚えだ。

この葉っぱは蒸し料理の道具に使われるほど、火を直接通さない。


この葉っぱを木から数枚もぎ取り、近くにあった蔓もちぎりバケツに入れた。


そこから、落ち葉をバケツに入るだけ集めながら、昨日の場所に向かって、登り進めた。


——————-


到着直後は、まずは水を飲み、少し休む。


周りにはあの女の子の気配はしない。いつもどこにいるんだろう?と考えながら、釣りの準備と火の準備を整える。


火打ち石で火花を起こし、火花が木に移って燃えるイメージをする。


赤色に淡くひかり、火と共に煙が立ち始めた。


「本当、すごく楽。」


昨日と比べると労力に雲泥の差があった。火打ち石はこれから絶対に忘れないと決心した瞬間だった。


来る途中に取ってきたブエナの葉にサツマイモをくるんで蔓で縛って、火の中に投げ込み、上から落ち葉をかぶせる。


にんじんを取り出し、にんじんが一口サイズに切れているイメージを強くする。


緑色に少し濃くひかり、ヒュッと音と共ににんじんが一口サイズに切れた。


そうこうしているうちに魚もかかったようで、竿がよくしなってした。


しっかりと竿を持ち、持ち上げる。

『昨日よりはあまり手応えがないな。』と思いながら、引き上げると30㎝ほどの立派な魚だった。


『昨日の魚の引きが強すぎて、今回が軽く感じただけか。』


魚を処理し、にんじんと共にブエナの葉っぱにつつんで、つるで縛り、火の燻っている落ち葉の中に潜り込ませる。


しばらくボーっとしていると、魚の良い匂いがしてきた。


手に水の膜を纏い、落ち葉の中から、魚を包んだものを取り出し、開ける。


にんじんが魚の身に沈み、脂がブエナの葉の窪んでいるところに溜まっている。

目で見ただけで柔らかく蒸し焼きにできていると分かった。


2本の枝を取り出し、2本の枝が真っ直ぐになるようにイメージする。

緑色に濃くひかり、ヒュッと音と共に枝の表面が切れて、真っ直ぐになる。


箸を手に持ち、魚にあてるだけで箸が沈み、透明な魚の脂が溢れ、良い匂いがさらに強くなる。

すると、昨日と同じ場所の草薮がガサガサと騒がしくなった。


振り返るとやっぱり、昨日の猫耳の女の子だった。

服はやはり持っていないのか、昨日とまったく同じだ。


こちらを睨み、その場から動かないが、チラチラと魚に目が動く。


もう一枚、ブエナの葉っぱを取るために立ち上がると、女の子はもといた草藪に急いで逃げ込む。


だけど、草薮の上から尻尾が少し見えており、そこにいるのが分かった。


その姿が可愛く見えた。


ブナエの葉っぱに魚を半分移し、岩の上におく。

そして、サツマイモも落ち葉の中から取り出し、半分に割る。


サツマイモの断面は中心に向かうにつれ、黄色の色が濃くなっており、その濃さから甘さが伺えた。

割ったことにより、甘い匂いが漂う。


草薮を見ると、顔だけ草薮から出していた。


目が合うとまた草薮に隠れる。


サツマイモの半分をブナエの葉っぱに移して、軽く結び、魚を葉っぱに包んだものと一緒に置き、10歩ほど離れる。


少し待つと、少しずつ女の子が草薮から姿を現し、僕を睨みつけながら、ゆっくりゆっくり、岩の上にある2つの食べ物に近づいていく。


この間、僕は一切、動かない。


食べ物の前に到着した女の子は食べ物を掴むとこちらを警戒しながら、飛び跳ねるように逃げていった。

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